体験選択とは, 行為選択の第三の規準 (感情性の規準) を適切に表現するため筆者によって案出された概念だが, これまでのところ, 体験選択の種差をめぐる議論は十分になされてはいない.この稿では, 体験選択一般についての議論から歩を進め, 開いた社会性と結びつく体験選択を取り上げることにする.開いた社会 (société ouverte) とはいうまでもなく, ベルクソンに由来する概念である.開いた社会性につながる体験選択は, その後の行為選択へ甚大な影響を与える.それゆえこの種の体験選択について考察を進めることは, 行為選択の第三の規準を考える上できわめて有意義であるにちがいない.
最初に具体例およびベルクソンのテキストに依拠しながら, 開いた社会性それ自体の意味が検討され, それが動性に関係する概念であることが明らかにされる.ついでこの意味での社会性と体験選択のつながりについての言及がなされ, 開いた社会性と結びつく体験選択の位置が明確にされる.開いた社会性はどのような行為選択を結果するのだろうか.行為論的な観点からは, この問いは大きな意味をもつ.そこで多元的現実論などを参照しつつ, 動的な意思決定の可能性が示唆されるに至る.最後に開いた社会概念の応用の先例としてコミュニタス概念が取り上げられ, この稿の方法論的な意義が確認される.
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