本報告は,苫小牧
ゼロエミッション
・ネットワークという循環型地域社会の形成に寄与しようとする
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間連携を紹介し,その意義を考察することを目的とする.そのためのデータは,各
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の担当者からのヒヤリングとその際の説明資料である.このネットワークはトヨタ自動車北海道(株)の提唱によって,2001年9月に結成された.会員として参加している
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は同社のほかに,いすゞエンジン製造北海道(株),出光興産(株)北海道製油所,清水鋼鐵(株)苫小牧製鋼所(電気炉による製鋼),(株)ダイナックス(自動車部品製造),苫小牧ケミカル(株)(廃棄物処理業),日本軽金属(株)苫小牧製造所,日本製紙(株)勇払工場,合計8社(事業所)であり,そのほかにアドバイザーとして(財)道央産業技術振興機構が関わっている.ネットワークは廃棄物ゼロ化のための取り組みに焦点を絞っている.具体的には,参加各
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が抱えている廃棄物処理の問題とこれへの対処の仕方を各社の現場で報告しあうというもので,初年度と第2年度は月1回,第3期は2ヶ月に1回,第4期の2004年度は3ヶ月に1回の頻度で研究会が開かれてきた.出席者は各社とも課長クラスなどを加えた廃棄物処理担当者2_から_4名であり,各年度末には参加各
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(事業所)の社長・所長からなる代表者会議が開かれ,ここで当該年度の活動が総括されている.そのほかに,廃棄物処理で先進的試みを行っている
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を視察している.ネットワークに参加している諸
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のなかには,鉄やアルミニウムなどの端材や切子を排出する
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がある一方で,それらを原料として製造活動する
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や廃棄物処理を通じて資源を回収する側に立つ
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もある.しかし,そのような投入産出関係にある
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のみというわけではない.循環型地域社会の形成のための活動として,各社の相互学習と独自の工夫による
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化に向けた努力そのものが重要な意味を持ちうる.それは例えば金属加工に伴う汚泥や研磨カスの処理などに見て取ることができる.また,黒鉛カスの再資源化などで,ネットワークに参加する
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の間に新たな投入産出関係が生まれた事例もある.さらに,個別
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単独では廃蛍光灯や廃乾電池などの処理が難しかったが,連携することによって
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につなげた事例もある.しかしそれだけでなく,ネットワークの取り組みをネットワーク外部に対して情報発信することにより,循環型地域社会形成の機運が醸成されうるという意味がある.情報発信は,北海道新聞や苫小牧民報などの地元新聞による報道と,ロータリークラブなどでの講演や学会などでの報告という手段がとられている.ネットワーク活動は概ね成功し,
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化が各社とも進展している.ただし,
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とは廃棄物がゼロになることではなく,埋立廃棄物のゼロ化のことであり,言葉の本来の意味での循環型地域社会の形成に寄与するとしても,直結するとは限らない.循環型地域社会という概念が本来意味する内容のうちどれに,上記の
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間連携が寄与するのか,再検討を必要とする.また,ネットワークへの参加が開かれているわけではないことにも注意せざるを得ない.とはいえ
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にとっては,埋立廃棄物ゼロ化の推進により,コスト削減を実現できるという意味は大きい.コスト削減という個別利害の追求が社会全体の利益につながりうるのである.苫小牧
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・ネットワークと参加
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の行動は,ホーケンほか(2001)『自然資本の経済』(佐和隆光監訳)日本経済新聞社の言うナチュラル・キャピタリズムの好例である.
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