齲蝕予防を目的としたフッ化物歯面塗布法には, 溶液とゲル状のフッ化物を用いる2つの方法がある。フッ化物ゲルは, 溶液と比べて (1) 塗布時の操作性, (2) 歯面への停滞性の点で優れているが, 近年,
チキソトロピー
性フッ化物ゲルが, 従来のフッ化物ゲルの欠点を補う性質, すなわち (1) 隣接面への流動性, (2) 嚥下防止などの特色を有していることが報告されている。しかし, フッ化物ゲルの物理化学的特性に関しては明らかでない点が多い。
本研究は, 我が国でチキソトロビー性フッ化物ゲルが市販されていないため,
チキソトロピー
性の特性を有するゲル化剤として, micrecrystalline cellulose (MCC) を用いてフッ化物を含んだゲル (MCCゲル) の調製を行ない, 応用面からみたフッ化物ゲルの特性を検討した。実験は, 物理的性状の検討として (1) 粘度, (2)
チキソトロピー
性, (3) 付着性, (4) 付着残留量, (5) 120g圧に対するゲルの広がりのdimensionの測定と, 化学的性質として透析膜を用いてのフッ素イオンの遊離性を調べ, さらに歯質との反応性を検討するために, 塗布後のenamel表層のフッ素とりこみ量を測定した。
コーンプレート型レオメーターにて測定したMCCゲルの履歴曲線は,
チキソトロピー
性を示すループを描き, ヒステリシスループ面積算出法による
チキソトロピー
性測定の結果は, MCCゲル (APFゲル) と既製の
チキソトロピー
性フッ化物ゲル (本邦未輸入, 以下既製ゲルと略) の相対的な測定値は同じ値 (20896 Pa・sec
-1) であった。
MCCゲルからのフッ素イオンの遊離性は, APF溶液の遊離率 (5分後のAPF溶液からの遊離率を100%とする) の約80%であり, 既製ゲルは, 0.2%であった。
MCCゲル (APFゲル) の付着性は95g/sec, 既製ゲルは117g/sec., 付着残留量はMCCゲル (APFゲル) 0.19mg/cm
2, 既製ゲル20.94mg/cm
2であった。
MCCゲル (APFゲル) 塗布群のエナメル質表層におけるフッ素量の平均値は0.5μm層で21,702ppm, 7.2μm層で3405ppmとなり, 既製の
チキソトロピー
性フッ化物ゲル塗布群の平均値は0.5μm層で2,483ppm, 7.3μm層で731ppmであった。
本実験で検討したmicrecrystalline celluleseによるフッ化物ゲルは, 臨床的並びに公衆衛生的応用に適した局所応用剤として, 物性の面で優れた長所を有しており, さらに化学反応性の面では, エナメル質表層約7μm層において既製の
チキソトロピー
性ゲルよりも, 約3倍以上のフッ素がとりこまれることが確認された。
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