【講演者の紹介】
後藤元信(ごとうもとのぶ)
略歴:昭和59年名古屋大学工学研究科博士後期課程修了,同年名古屋大学工学部助手,昭和63年熊本大学工学部講師,平成5年同助教授,平成13年同教授,平成24年名古屋大学工学研究科教授,令和2年名古屋大学名誉教授,同年超臨界技術センター(株)取締役
研究分野:超臨界流体工学,プラズマ工学,分離工学,反応工学,食品化学工学
二酸化炭素や水を用いた超臨界・亜臨界流体技術は,食品・飲料の分野を中心に古くから実用化されてきたが,近年は特に環境低負荷なグリーン溶媒として注目されている.著者らは熊本大学と名古屋大学で超臨界流体に関する研究,特に食品関連分野への適用の研究開発を行ってきた.さらに,弊社では社会実装を目指して技術相談,受託試験,受託生産などを行っている.
弊社ではこの超臨界二酸化炭素抽出法をベースとしたコーヒー豆の脱カフェイン技術「GREEN DECAF PROCESS®」を国内で初めて実用化した.この技術は全ての工程において有機溶媒を一切使用せず水とCO2のみを用いるクリーンなプロセスである.さらに,緑茶の
デカフェ
技術開発にも取組み,茶葉の色合い,テアニン・カテキンといった旨味や機能性成分の流出を抑えた
デカフェ
茶の製造も可能となった.煎茶や和紅茶に加え,難しいとされてきた抹茶の
デカフェ
加工に世界で初めて成功し,国内外から注目されている.
超臨界二酸化炭素(臨界点31.1℃,臨界圧力7.4MPa)は食品素材を含む各種天然物からの有用物質の抽出および分離精製法として商用利用されており,コーヒー生豆からの脱カフェインプロセスやビール製造のためのホップエキスの抽出が欧米を中心に古くから実用化されてきた.最近はスペインやフランスにおけるワインボトル用のコルク素材からの不要成分の除去などは非常に大きい抽出設備で処理されている.アジアでの超臨界プラントも多くあり,インドでの香辛料の抽出,韓国でのゴマ油の抽出,台湾での米からの農薬の除去などが大規模に行われている.わが国では多品種対応型の中規模プラントがスパイス,香料,色素などの抽出を対象に稼働している.健康食品や化粧品,色素など幅広い用途で利用されているカロテノイドの加工(抽出,精製,微粒子化など)への超臨界流体の応用が注目されており,食品素材からのリコピン,βカロチンや藻類からのアスタキサンチンやフコキサンチンなどの抽出・精製に応用されている.
魚油などの水産脂質中に含まれるn-3系不飽和脂肪酸であるEPAやDHAの向流抽出塔による精製については古くから検討されてきているが,抽出のみならず台湾では超臨界疑似移動相クロマトグラフによる精製も実用化されている.ビタミンEであるトコフェロールは大豆油の脱臭残渣などから製造されており,超臨界向流抽出塔を用いてトコフェロールの精製が可能で,中国で実用化された.柑橘類の果皮の圧搾により得られるシトラスオイルはテルペン類と含酸素化合物(アロマ成分),色素などからなっており,香料などの生産においては含酸素化合物を濃縮する工程(脱テルペン)が必要となる.従来法の水蒸気蒸留,減圧蒸留,溶媒抽出に代わる方法として超臨界二酸化炭素抽出が適用できる.
一方,亜臨界水(臨界点374.2℃と22.1MPa)は通常の水に比べて比誘電率が小さくなり,イオン積が大きくなるため,有機物質の溶解に対して有機溶媒に匹敵する溶解性を有する.そのため,食品素材からの抽出溶媒や加水分解や熱分解反応を利用した資源化プロセスとしても注目されはじめている.
抄録全体を表示