マツ科トウヒ属の樹木である
ヤツガタケトウヒ
とヒメバラモミは本州中部にのみ分布し,個体数が少ないことから絶滅危惧植物としてリストされている。保全対策をおこなうためには,現在の詳細な分布状況を把握するとともに,分布適地を判定することが重要である。現地踏査によって2種の分布域を3次メッシュセル単位(緯度30"×経度45")で特定したところ,
ヤツガタケトウヒ
52セル,ヒメバラモミ74セルに出現が確認された。2種の出現セルの中部地域における気候特性を分析した結果,年平均気温が低く(
ヤツガタケトウヒ
出現セルの平均値5.8℃;ヒメバラモミ出現セルの平均値5.9℃以下同様),年降水量が少なく(
ヤツガタケトウヒ
1,635mm;ヒメバラモミ1,676mm),最深積雪が少なかった(
ヤツガタケトウヒ
33cm;ヒメバラモミ33cm)。各月の平均気温と降水量・最深積雪の上限値と下限値を用い,全国の3次メッシュセルに対し適合性を判別した結果,
ヤツガタケトウヒ
で376セル,ヒメバラモミで351セルが気候適合セルとして抽出された。表層地質と2種の出現率の関係について分析した結果,最も高く出現した区分は石灰岩であり,
ヤツガタケトウヒ
の出現率は47%,ヒメバラモミは80%であり,強い関係があることが示された。これらの結果から,南アルプス北西部の石灰岩地(
ヤツガタケトウヒ
で33セル,ヒメバラモミで34セル)において,今後も2種の存続する可能性がもっとも高いと考えられた。
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