2002年度の調査(Watanabe and Hirano, 2006)によって,谷で互いに隔てられたピーク間(直線距離で340m)の1雄個体の往復移動が確認されたので,2003年,2004年,2005年の3年間,著者らは計123個体(雄115個体,雌8個体)をマーキングし,直線距離で互いに約125-460m離れた4つのピークの間でマーク個体の移動状況を追跡した.その結果,雄において,累計52回のピーク間移動が計27個体で確認された.さらに,52回のうち28回は同日内の移動であった.すなわち,ギフチョウの雄はピークを含む尾根筋に執着した周回性,回帰性の飛翔を示す場合があり,その頻度は相当に高いと考えられた.この山頂間移動は,前報(Watanabe and Hirano, 2006)で述べた巡回飛翔(round patrolling)の拡張という観点から考察された.すなわち,ギフチョウの雄は,この山頂固執性により散逸を防止しつつ相当に広い範囲の巡回行動を可能とし,同時にらせん飛翔に伴う追い出し行動によってspacing-outし合い,複数の雄個体の同一地点への集積を防止している.これによって,複数の雄個体がより広い山頂部を同時的にカバーしあい,ピークに登ってくる未交尾雌との遭遇機会を増大させていると考察された.
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