カナダとオーストラリアは英連邦内の2大国で、その類似性故に格好の2国間比較の研究対象となる。両国ともにイギリスを真似た議院内閣制とアメリカから学んだ連邦制の組合せを政治機構の骨子とするが、実は2つの政治的原則は相容れず根本的な矛盾が内包されていることが指摘される。地方・州の利益を中央で反映させるべく設けられた
上院
がその矛盾を理解するためのよい材料となる。政府が議会の信任に基づいて統治に当たる責任政府の下では、下院議院は選挙で選ばれ、1議員がほぼ同数の人民を代表し、多数決の原理で国の政治は進行する。他方、連邦制の原理を採り入れた
上院
では、地方・州を国の構成単位と見なし「人口に基づく代表」の原則に従わない。2議院制でしかも
上院
が選挙で選ばれると、政府がどちらかの院に責任を負うのか不明確になる。斯くして、金銭に関する法案を拒否する権限さえ与えられた豪
上院
は、1975年に総督が首相を罷免するという政治的大事件を引き起こした。カナダでも長く眠っていた「任命された」
上院
が最近下院に対して牙を剥くようになり、昨年G.S.T.(消費税)法案の通過をめぐって喧騒を巻き起こしたし、今年になって中絶法案を葬っている。現実には
上院
が州・地方の利益を代表して下院と対立しているのではなく、政党間の対立が問題を複雑化させている。野党が
上院
で過半数を占めたら、
上院
を政党政治の第2ラウンドの舞台として利用するのである。
上院
に余り力をつけさせると責任政府の原則が覆されるし、かといって連邦制を効果的に運用するためには
上院
の本来の目的に沿っての活性化は不可避である。本稿では何かしらその矛盾から抜け出す秘法を提示するわけではないけれども、
上院
の抱えた本質的矛盾をよく認識した上でないと実のある
上院
改革は一向に進展しないことを明らかにする。
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