国連によってその概念が提示された環境・経済統合勘定は, 環境水準を含めた一国の真の経済的豊かさを表す統計概念として, 世界中に着実に普及しつつある。現在その推計方法に力点が置かれているようではあるが, 環境悪化の推計には概念的にも曖昧な部分が散見される。環境悪化の評価は, その悪化水準を元に戻す費用, もしくは悪化させない回避費用をもって, 計測するとされている。しかし人工的にも自然的にも再生不可能な環境財については, これら2種類による計測結果は異なるのは明らかである。
したがって, 理論的側面から環境・経済統合勘定の推計方法や, その経済学的含意を明確にしておく必要がある。この方面の研究としてはMalerによる研究が特筆される。彼の研究は経済を動学的に捉え, その社会的最適化問題から整合的に環境・経済統合勘定を導き出している。すなわち動学的最適化問題に現れるHamiltonianを国民純福祉指標と見なし, 環境・経済統合勘定をごく自然に導出するという考え方である。
本研究はMälerの定式化を踏まえながらも, 2種からなる生態系を社会的最適成長モデルに導入し, 社会的純福祉指標, 環境・経済統合勘定の導出を試みる。さらに生態系ダイナミクスに対し, そこに働く変分原理を明らかにし, Legendre変換を通して得られる生態系Hamiltonianを用いて, 生態系評価の新たな方法論と生態系保全戦略を提案する。
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