【目的】 我々は先行研究にて,椅子座位における臀部ずれ力を我々の実験モデルを用いて推定し,背もたれと骨盤の位置関係や普通型車いすのシートのたわみが臀部ずれ力に与える影響について報告してきた.それらの結果から,背もたれの高さが臀部ずれ力に影響する可能性が示唆されたが,背もたれの高さを変えて臀部ずれ力を実際に測定し検討した報告は,我々が渉猟する限りにおいては見当たらない.そこで本研究は,背もたれの高さが臀部ずれ力に与える影響を検討することを目的として行った.
【方法】 対象は,下肢・体幹に疾患のない健常成人男性13名(年齢:21.3±2.4歳,身長:174.7±5.3cm,体重:67.1±8.6kg)であった.各対象者には事前に本研究の概要を文書にて説明した上で協力を求め,了承を得た.座位時に臀部にかかる力を床反力計(アニマ社製FORCE PLATE)を用いて測定し,その際の後方への反力を前方向へのずれ力とした.統計学的解析では形態学的な影響を考慮し,測定したずれ力を各対象者の体重で除した値を採用した.測定肢位は,床反力計上に臀部,床反力計外に下肢を置いた長座位とした.臀部は,体幹・骨盤前後傾中間位で背部が背もたれ部に軽く触れるように座った時の大転子位置を基準とし,そこから前方へ5cm移動させた位置とした.背もたれの代わりとして床反力計上に接しないように横方向に設置した平行棒にもたれさせた.さらに,下肢の影響を少なくする為に下肢をローラー板上(ローラーと床面の摩擦係数:0.1)に置いた.実験は,背もたれ(平行棒)の高さを調節した2条件(床面から46cmと49cm)で行った.統計学的解析には,paired t-testを用い,危険率5%未満をもって有意とした.
【結果】 床反力前後分力における後方への反力(前方への臀部ずれ力)は,背もたれ高別にみると,46cmでは0.83±0.27[N/kg],49cmでは0.71±0.25[N/kg]であり,2条件間に有意差が認められた(p=0.014).これらの結果から,背もたれの高さが高い方が臀部ずれ力は低くなることが示された.
【考察】 本研究で背もたれとして使用した平行棒は,どちらの条件下でも3節(頭部・頚部・体幹)の合成質量中心位置よりも高かった.よって,背もたれ高が高いほど背部との接点は合成質量中心位置からより離れるため,力点と作用点の関係から背もたれにかかる力はより小さくなると推測される.この力は体幹を押し返す反力となり,安楽座位における臀部ずれ力発生の一つの要因となる.したがって,背もたれを高くすると背もたれにかかる力は減少し,それに伴って臀部ずれ力も減少したものと考える.
【まとめ】 本研究の結果から,褥瘡予防の観点から長時間の座位をとる患者では,使用する椅子や車いすを考えるにあたり,背もたれ高を十分に考慮する必要性が明らかとなった.
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