本稿は,近年の保険契約に関するホットイシューをとりあげて,それを紹介するとともに,わが国保険法に資する「何か」を提示するというシンポジウムの趣旨にしたがって,保険理論の立場から,「何か」を提示しようとするものである。
保険法の条文に取り入れられていない「リスク」概念について,保険法の条文の「危険」という言葉の用法を中心に検討した。その結果,保険利用にかかる不正利用に対する強い配慮がみられる反面,リスク概念における損失の期待値についての認識が薄いように思われる。そのため,保険法は,極端なかたちのモラルハザードを防止する側面は強いが,反面,損失の期待値を減少させるようなインセンティブを組み込んだ新しい保険商品を想定することがなかった。
本稿では,保険商品の中に損失の期待値を減少させるというインセンティブを組み込んだ近年の保険商品であるテレマティクス保険と健康増進型保険という二つの商品を紹介して,これらの商品が保険理論および保険法に一定のインパクトをもたらすものと指摘した。その結果,保険法およびその解釈において損失の期待値を取り入れること。さらに保険監督においては,マイナスのモラルハザードを組み込んだ新しい商品の認可において,厳正かつ柔軟な対応をする必要があることを指摘した。イノベーティブな商品が生まれる時には,従来の商品に対する紋切り型の対応は有害となることがある。保険商品の認可にあたっては,商品の社会的意義を十分に考慮した上で対応するのが望ましいのではないかと結論付けた。
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