目的:歯列弓の形態や歯の位置は,口腔周囲筋の影響を受けると考えられている.とくに舌圧と口唇圧が歯列弓および歯に及ぼす影響は大きいと考えられる.本研究では,舌突出癖を伴う
前歯部開咬患者における上下顎前歯
部に対する舌圧および口唇圧を計測し,これらの□腔周囲筋圧を正常者と比較するとともに,顎顔面形態との関係を調べる.方法:個性正常咬合を有する成人8名(正常者群)と,本学附属病院を受診した治療前の舌突出癖を伴う
前歯
部開咬患者10名(開咬患者群)を対象とし側面セファロを用いて形態分析を行った.また,安静聴と水嚥下時における,上下顎中切歯の舌側面切端寄リ・歯頸寄リおよび唇側面中央部の舌圧と口唇圧を測定し,それぞれの最大圧・時間圧力積および平均筋圧を算出した,また舌圧は,それぞれの項目について歯頸寄リに対する切端寄リの比率を算出した.これらをもとに正常者群と開咬患者群の比較を行い,開咬患者群においては圧カデータと顎顔面形態との相関を算出した.結果:正常者群と開咬患者群を比較すると,唇圧に差は認められなかった.しかし開咬患者群の舌圧は嚥下時において最大圧・時間圧力積および平均筋圧ともに,上顎
前歯
歯頸寄りで小さい値を示し,下顎
前歯
歯頸寄リで大きい値を示した.また歯頸寄リに対する切端寄リの比率は上顎
前歯で大きい値を示し下顎前歯
で小さい値を示した.相関分析では,現下時における下顎
前歯
の歯頸寄りに対する切端寄りの比率は,咬合平面角・上下顎
前歯歯軸傾斜角および下顎前歯
歯軸角の大きさと,それぞれ関係することが示唆された.まとめ:舌突出癖を伴う
前歯
部開咬患者では,正常咬合者と比較して,嚥下時に舌は上顎
前歯
の舌側面歯頸寄リにあまリ接触せず,下顎
前歯
の歯頸寄りに強く接することが認められた.このことから,
前歯
部開咬患者の舌は,嚥下時に低位をとることが示唆された.またこの傾向が強くなるにつれて,下顎
前歯
は唇側に傾斜し,咬合平面角は大きくなると考えられる.
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