症例は53歳男性.梗塞発症3時間後に左回旋枝(Seg.13)の閉塞に対してウロキナーゼを急速静注後,PTCAを施行し再開通に成功した.しかし,翌日から発熱,胸部誘導で広範なST上昇,心エコー図で中等量の
心嚢水
を認めた.切迫心破裂,心不全の徴候は認めず,心膜炎と考えプレドニゾロンを投与し解熱したが,
心嚢水
は減少しなかった.第17病日頃から空咳と共に再び発熱,遷延性心膜炎,胸膜炎が出現した.アスピリンを投与したところ症状は軽快した.
梗塞早期の
心嚢水
貯留は切迫心破裂,心不全,心膜炎とその鑑別は重要である.さらに,近年,血栓溶解療法が盛んに行われ,血性
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貯留を生じることも報じられている.
一方,Dressler症候群は心筋梗塞後2~10週後に発熱,心膜炎,胸膜炎などを生じ,しばしば再発することで,梗塞早期心膜炎とは異なるものとして知られている.しかし,Dressler症候群について一定の見解は得られてなく,その存在を疑問視する説も多くみられる.
本症例は後壁梗塞例であり,血栓溶解療法後からこのように発熱,胸部誘導上広範なST上昇,著明な
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貯留を伴う心膜炎を呈したこと,心不全の合併なく慢性期に胸水貯留をきたした点で興味深く,比較的まれであると考えられた.そこで,Dressler症候群や血栓溶解療法に関する文献的考察を加え報告した.
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