【目的】入院患者の平均年齢が80歳を超えている当院では、精神症状を呈し、病棟生活やリハビリテーション(以下、リハ)に支障をきたすケースは珍しくない.うつ病に関しては、その合併がADLの回復を阻害することを示した研究が存在する.しかし、その他の精神症状とADLに関する報告は対象症例数の少ないものがほとんどである.そこで、処方された向精神薬に着目し、向精神薬の種類別にADLの変化を調べることで、精神症状別のADLへの影響を類推することを目的とした.
【方法】対象は2006年1月~2007年12月に当院回復期リハ病棟に入院し、1ヶ月以上リハを受けた65歳以上で病前は自宅生活者であった194名とした.代表的な向精神薬として睡眠薬、
抗精神病薬
、抗うつ薬、抗不安薬を選択し、「今日の治療薬」(南江堂)の分類に準じて、
抗精神病薬
または抗うつ薬処方70名(以下、A群.平均年齢82.2±6.2歳.睡眠薬、抗不安薬との併用を含む)、睡眠薬または抗不安薬のみ処方50名(以下、B群.平均年齢81.1±7.8歳)、上記の向精神薬非処方74名(以下、C群.平均年齢81.0±7.6歳)に分類した.各群の入院時と退院時のFIM得点をWilcoxon符号付順位和検定で比較した.3群間のFIM得点及びFIM変化(退院時と入院時の得点差)をKruskal-Wallis testと多重比較検定Scheffe’s F testで比較した.統計学的有意水準は5%未満とした.本研究は倫理性に十分配慮した.
【結果】各群の入・退院時の得点は平均値(中央値)で、A群47.3±22.9(41)→59.2±29.2(53.5)、B群61.7±27.2(66)→80.3±30.1(88)、C群63.6±27.7(63.5)→82.1±33.8(91.5)であり、3群とも有意に改善した.3群間の得点の比較では入・退院時ともA群はB群とC群に比べ有意に低く、B群とC群では有意差はなかった.FIM変化は3群間にて有意差が認められたが、多重比較では有意差を示さなかった.A群を
抗精神病薬
のみ処方45名、抗うつ薬のみ処方18名、
抗精神病薬
と抗うつ薬の両者処方7名に細分すると、入・退院時のFIM得点は平均値で、それぞれ47.2±22.8→59.6±29.0、51.7±25.5→65.3±30.8 、36.9±13.8→41.3±21.0であった.
【考察とまとめ】
抗精神病薬
や抗うつ薬を要する症状は病棟生活やリハへの支障が大きく、一方で睡眠薬や抗不安薬のみ要する症状は病棟生活やリハに大きな影響はないことが示された.症例数が不十分なため、
抗精神病薬
と抗うつ薬との比較は統計解析を行わなかったが、本研究では
抗精神病薬
のみ要した者のADLの自立度・改善度は抗うつ薬のみ要した者と比べ、若干低い数値となった.
抗精神病薬
と抗うつ薬を併用した者では極めて低い数値となった.
抗精神病薬
は精神病性障害、せん妄、認知症に伴う幻覚、妄想、興奮、不穏、攻撃的言動、激しい焦燥等に用いられるが、これらの精神症状はうつ同様にADLへの影響が大きい可能性が示唆された.
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