【目的】
家庭科教師において求められる教師像を意識し、効率的に日々の授業実践や授業研究、研修などを通じて実践的指導力を向上させていくことが必要である。しかし、家庭科に関する研修の具体的な内容についての検討や、研修についての研究は十分になされていないのが実状である。本研究では、家庭科の授業づくりに関して、求められる研修の在り方の方向性をつかみたいと考え、特に授業経験の少ない若手の家庭科教師や教科担任制でない小学校の家庭科の授業づくりにおいて、どのような力に着目し、どのような研修内容を実施することが、より効果的であるのか、実際に即して検討を試みることを目的とする。
【方法】
学習指導要領や教科書に示される内容に対して、改めて課題意識を持つことを授業づくりの出発点とした場合、「なぜこの教育内容」が取り上げられ、「どのように教える」ことが適切なのであろうか、という問いを立てることになる。教師自身が教育内容を深く理解し学習者がわかるようにつくり換え、授業を介して教えることが必要となる。このつくり換えについては、
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的変換といわれ、ドイツをはじめ諸外国の
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で探求が進められている。我が国でも諸外国の
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についての検討がなされているが、本研究では、長谷川榮(1995・2008)や三村和則(1987)高村泰雄(1972)大野(2014)らの論の展開を参考にし、
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的変換を意識化する手立てを研修に取り入れることで教師自身の的確な教材選定や授業づくりの力へつなげられると考え、具体的な研修会での実証を行った。研究協力が得られた京都府T地区自主研究グループの研修において、平成26・27年度に実施された2年間12回のうち「みそ汁の調理」を対象とした5回の研修において、
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的変換に係わる手立てを導入し、授業づくりについての参加教師の反応を分析することでその有効性について検討した。分析データは、研修の様子のビデオカメラによる記録や参加教師の発話や研修中及び研修後に記述したノート等の記録によった。
【結果・考察】
平成26年度は、調理実習や授業を想定した研修にみそ汁の調理方法や手順等を提示しないといった教科に関する必要な情報に制限を設ける手立てを仕組んだ。そのような調理実習を含む研修後、参加教師の交流を行った。分析の結果、参加教師は細部にまで既存の知識や技術について、学習者を意識しながら教育内容を捉える姿が見られ、
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的変換の原理導入の有効性が認められた。
平成27年度では、「みそ汁の調理」の授業計画を組み立てることを中心に授業過程を動的に検討する研修を実施した。
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的変換の教授的正当化や教授的還元の作業を組み込んだ演習を行った。その結果、研修中の参加教師の発言には
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的変換の要素が多くみられ、授業づくりについて理解できたとの評価を得た。このように、教師自身の的確な教材選定や授業へ活用する力を促し、自律的な授業計画、教材研究の力につながることが実践から明らかになった。
本研究から、家庭科の授業づくりに有効な研修の在り方として、次の3点を挙げる。まず、研修参加の動機付けとメンバー構成である。今回の研修会では中堅教師と若手教師からなる構成で、参加教師の主体性に委ね、参加教師が自由な発言ができる雰囲気であった。2点目は今回実践したように、参加教師が主体的に問いを立てながら実習や演習に取り組む際に
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的変換を促す手立てを工夫して取り入れること、3点目は今回実践には至っていないが、
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的変換の理論を理解する研修内容を同時に組み込むことも効果的ではないかと考える。
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