地球温暖化の影響によって海面下に沈むといわれている南太平洋に浮かぶ島、ツバルの現状について報告する。ツバルは、北はキリバス共和国、南はフィジー共和国の間に位置し、南緯5度_から_11度、東経176度_から_180度の間の太平洋に点在する9つの環礁と珊瑚礁からなる国である。国土面積は世界で四番目に小さく(26k_m2_)、人口は二番目に少ない(11,146人、ともに2002年センサス)。モーターボートをチャーターしてフナフティ環礁を廻った。海の色は群青色、黒潮である。島は緑に満ちあふれ,海岸線まで熱帯の樹木は生い繁っていた。しかし,丸っきり景観の異なった島がある。樹木は見えず,表土の流出した白い石灰岩の塊の島である。ツバルは12月から2月にかけて大潮をむかえる。
海面は3mほど上昇する。島の一部では海水が湧水したり、潮を被ってしまう所がみられる。ツバルの緑の消えてしまった島を見て愕然然とした。
フナフティの高校生約60名を対象にアンケート調査を行った。それによると半数以上がツバルに地球温暖化の影響が見られると指摘する。そのなかには,島は海中に沈んでいるという悲痛な答えもみられる。そして地球温暖化防止会議を知っているのは半数,さらにアメリカが会議から離脱したことについては多数が理解できないと不満を抱いている。また,なぜか日本がCO2を世界で一番多く排出していると考えている。「島が沈んだらどうしますか」という「酷」な質問に関しては,多くが移住を希望している。 日本へのメッセージを書いてもらった。日本に救いを求める声が多くみられた。家が海水を被るとか、低地と海に近い道路に最も影響が見られるなど、温暖化の影響を具体的に指摘したものやツバルは20年程で沈んでしまうなどの声もある。また温暖化の原因となっているものとして工業化をあげ、日本にモーターバイクや車などの生産を止めてほしいという意見もみられる。また堤防をつくり、そばに木を植えてほしいとか、海面上昇を防ぐものを送ってほしいという具体的な要望もある。どのメッセージにもツバルが直面している環境問題についての深刻な思いが込められている。高校生たちが自らの進路について夢のある未来を思い描いているのは世界共通である。しかし、国土が海に沈んでいくかもしれないという現実的な問題を前にして、ツバルの高校生たちがいかに自らの夢を抱いた将来設計 を描いていくのか、心、重い。島内をレンタバイクで廻
ってみた。高潮対策のために高床式に建設された家や建築中の家が随所にみられた。しかし,すべての人が家を建替えられる資金を持っているわけではない。環境破壊における被害は,まず資金のない経済的に弱い立場の人々に及ぶ。聞き取りをする私にある人は涙を浮かべて「私が生まれ育ったこの国が沈むはずがない」と語った。調査をすすめていくうちに重い気持ちになった。「国は沈むかもしれない」という思いを抱きつつ日々生活することの重苦しさをいかに拭い払えるか。それはツバルの問題ではなく,先進国日本に提起された課題でもあるのだろう。
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