1.はじめに
「伝染病予防法」が平成11年に廃止され「感染症法」へ改正された。
この改正で、100年という長い年月かけて培われてきた「伝染病予防法」の精神である、「平常時での予防と官民一体となった防疫業務」と言う観点が失われ、行政では専門官と予算の削減、地域では、衛生組織の弱体化などが顕著となり、緊急時対策に不安が残る。
一方、経済のグローバル化や地球温暖化に伴う媒介生物の生息域の変化が徐々に顕在化してきており今後は大きな問題となることが予想される。
2.薬事法上で許可されている原体及び製剤
現在使用されている原体は、有機リン系9種類、ピレスロイド系7種類、昆虫成長阻害剤3種類、カーバメイト系1種類、有機塩素系1種類の合計21種類で、製剤では、乳剤、油剤、粉剤、粒剤、水和剤、MC剤など混合剤を含め70種類である。
3.各社の現状
・業界全体の売上は、最高時に約80億円ありましたが年々減少し、平成20年度は20%減の16億円と大幅に減少し、1社当たりの単純売上高は、2億円にしかならない。
これは感染症の発症減から、薬剤の使用回数や薬量の低減と自治体の予算削減などが絡み合ってのことかと思われる。
・新規薬剤の申請試験費用は、原体で約3億円、製剤で最低約5千万円、申請手数料3千万円が必要であり、更に、開発担当者の人件費などを含めると膨大な費用が発生するため、新規薬剤を開発しようとする意欲が低下する状態となっている。そもそも
殺虫剤
の許認可基準を人体用医薬品と一緒の基準で評価しようとすることに無理があると思われる。
・売上高などの減少に伴い、製品の整理や一括生産など社内の合理化だけでは経営が成り立たなくなり、企業間の経営統廃合などが始まった。因みに、協会ができた昭和36年当時は、メーカーが30社位あったと思われるが、現在は8社いや5社かもしれない。
4.まとめ
・備蓄に対する提案
緊急時の製剤供給対応は、製剤メーカーやPCO業者の在庫は数日分しか無く、新規の製造出荷には、原体で半年、製剤で3ヶ月、合計8ヵ月が必要と予想されている。人的対応としては、(社)日本ペストコントロール協会で各都道府県に「感染症予防隊」の組織化が推進されているが、緊急時に於ける防疫用薬剤や散布器具は、国・自治体で備蓄する必要があると思う。
・現存する薬剤を大切に
抵抗性の問題回避や、新規製品の開発が難しい状況から、有害生物由来感染症から人間の健康を守るために、現存する貴重な薬剤を効果的に活用することが必須であると考える。
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