1.はじめにーJR
津軽線
をめぐる経緯 2022年8月の豪雨で被災したJR
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(青森-蟹田-中小国-三厩間・55.8km)は2023年1月、不通となっている蟹田-三厩間の存廃をめぐって、JR東日本盛岡支社と沿線の外ヶ浜町、今別町、青森県との検討が始まった。
発表者は2019年、北海道新幹線の二次交通機関としての
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および沿線の調査に着手し、利用状況や新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響、デマンド型乗合タクシー「わんタク」導入、沿線の地域活動、さらには被災後の状況と将来像について報告してきた。
本報告では、
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をめぐる上記4者の検討の経緯と論点を整理するとともに、沿線で進む「
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観光案内マップ」制作および「風乃まちプロジェクト」を紹介し、鉄路と沿線の将来像を考察する。
2.「蟹田以北」の存廃協議
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は2019年度の平均通過人員(輸送密度)が青森-中小国間720人/日、中小国-三厩間107人/日、全体で452人/日で、同社の全68路線中59位だった。
同年度、発表者が実施した沿線2町の全世帯調査(回収率:外ヶ浜町12.4%、今別町26.9%)によれば、
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を「毎日のように使う」と回答したのは外ヶ浜町6.9%、今別町1.0%、「ほとんど使わない」は外ヶ浜町38.4%、今別町65.6%だった。
JR東日本盛岡支社は2022年7月、新たな交通体系の試行として「わんタク」などの運行をスタートさせたが、翌8月の豪雨被害により、そのまま「蟹田以北」の代替交通手段の一部となった。不通区間の復旧に4カ月、約6億円が必要とされ、存廃をめぐるJRと2町、県の検討会議が2023年1月から2023年6月までに5回開催された。
JR側は選択肢として、①同社が費用を全額負担し、鉄路を廃止して路線バスと乗合型タクシーを軸にした交通体系へ転換する、②鉄路存続の場合は「上下分離」方式などにより維持費用を分担し、地元側が約4億円、JR側が約2億円を負担する、という2案を提示し、JR側が費用を全額負担しての鉄路存続は困難との認識を伝えた。さらにその後の検討会議で、バス・タクシー転換が望ましいとの意向を示した。
しかし、鉄路の存続とより詳細な検討の要望があり、2023年7月17日時点で決着を見ていない。
3.考察
国の有識者検討会は2022年7月、輸送密度1,000人未満の地方鉄道について、鉄道事業者または自治体の要請に基づき、国主導の協議会を設置して存廃を判断する仕組みを導入すべきだ―と提言した。
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に関する検討会議は、この協議会とは別の枠組みで設定されている。
外ヶ浜町は町民にとって便利な交通体系を探っている立場である。また、今別町は、
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と同時期に被災しながらJRが復旧させた五能線などに言及し、JRによる鉄路の復旧と維持を主張している。
五能線で被災・復旧した区間の2019年度の輸送密度は、能代-深浦間309人、深浦-五所川原間548人と、
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よりは多いものの1,000人には及ばない。五能線の存続はまだ検討段階に至っていないとはいえ、「線引き」の根拠をどう説明するかは一つの論点となろう。
また、地域公共交通と地域政策をどう関連づけるかも焦点となる。沿線2町は高齢化率が50%超、人口は合わせて7、000人に満たない。鉄路存続の主張に「持続可能な地域づくり」のビジョンをどう織り込ませるかが問われよう。
「蟹田以北」を含む地方鉄道の存廃論議は、JR東日本が「関東圏と新幹線、駅ナカを中心とする収益で地方鉄道を支える」スキームの限界を示した形である。より大きくみれば、
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の問題は「公共交通機関を誰がどう支えるか」、ひいては「財政面で地方を誰がどう支えるか」、「人口減少社会において、独占的な立場にある公的私企業がどのような原則でどう存続すべきか」といった課題をめぐる提起ともなっている。
4.おわりに-希望としての地域活動
このように厳しい状況に置かれた
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だが、沿線では地域活動も進展している。2020年、COVID-19の給付金を活用し、地域の交流と経済活動の振興を図った匿名の外ヶ浜町民が「風乃まち」プロジェクトを始動させた。地元の賛同と協働が進展した結果、町中心部で廃業が決まりかけたスーパーの事業継承とリニューアルに成功している。
また、JR東日本盛岡支社と青森大学、外ヶ浜町、今別町の4者は
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と沿線の振興を目指して2020年度、「JR
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プロジェクト」をスタートさせた。種々の活動を経て2023年7月、青森大学生による「
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観光案内マップ」制作が進んでいる。 鉄路の存廃の検討にとどまらず、これらの地域活動と地域交通をどう関連づけ、「持続可能な地域づくり」を論じるかも大きな焦点と言える。
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