外来血液透析患者112名224肢の下肢末梢動脈疾患に対するスクリーニング検査として,SPPとABIの検査精度を検討した.下肢血管造影検査と下肢血管動脈エコーから63肢がPADと診断された.足底部,足背部,第1趾のSPPとABIの検査精度をROC分析により算出した.各部位のカットオフ値は足底部62 mmHg,足背部51 mmHg,第1趾40 mmHg,ABI値は0.92であった.SPPでは第1趾が足底部に比し,PADに対する検査精度が優れABIの検査精度は第1趾と同等であった.PAD 63肢において,算出されたカットオフ値①SPP第1趾40 mmHg未満,②ABI値0.92未満を基準とし,4つのカテゴリーに分類した.基準より①②とも下回る場合が39例,①もしくは②で下回る場合が22例,①②とも上回る場合が2例であった.透析患者のPADのスクリーニング検査はSPPとABIを併用することが推奨される.
症例は96歳,女性.突然の右下腹部痛で当院の救急外来に搬送された.血液生化学検査と単純CTでは診断がつかず,腹痛が増悪した.造影CTを施行したところ,盲腸周囲ヘルニアによる絞扼性腸閉塞が診断され,発症より16時間後に緊急手術を施行した.終末回腸から約60cm口側の回腸が約10cmにわたり盲腸背側の小孔から陥入していた.ヘルニア門を開放し絞扼壊死した回腸を部分切除した.術後経過は問題なく術20日目に退院となった.盲腸周囲ヘルニアは稀な疾患であり,既知でない場合術前診断は困難である.医学中央雑誌で検索した邦人報告例の28%は腸切除を要し,5%が死亡しており,いずれも80歳代で,手術待機中にショックに陥った症例の報告もある.画像で,盲腸背側に塊状の小腸を認めた場合,本症を念頭においた早急な手術治療が必要であると考えられた.
血液透析患者の下肢末梢動脈疾患 (peripheral artery disease: PAD) に対する特定積層型透析器AN69膜透析器の有用性を検討した. 第1趾の皮膚灌流圧 (skin perfusion pressure: SPP) 値が40mmHg以下を示す11例13肢に対し, 対照として中空糸型ポリスルホン (PS) 透析器を用いた. 各透析膜の使用時においてSPPおよび赤外線サーモグラフィを用い, 透析中の下肢末梢血流動態を比較した. 効果判定は①透析開始240分後のSPP値が透析前値に比し維持または上昇, ②サーモグラフィ画像で皮膚表面の血流改善を認めることとし, ①②を満たす場合に効果ありとした. PS膜では全肢で末梢血流改善効果がなかったが, AN69膜使用時では13肢中8肢で改善した. AN69膜はPADに対し透析中の下肢末梢血流動態の改善効果があることが示唆された.
血液透析患者20例に対し透析中の運動療法を6か月間施行した.身体運動機能,栄養評価を介入前,3,6か月後に行い,統計解析はHolmの多重比較検定を用いた.Quality of life(QOL)は介入前後に評価し,Wilcoxon符号付順位和検定を用い比較した.いずれもp<0.05を有意差ありと判定した.身体運動機能は介入3か月後に握力(非シャント肢),膝伸展筋力,足趾把持力,外転筋力,30秒立ち上がり試験,6分間歩行が向上し6か月後も維持または向上した.血中ヘモグロビン濃度を含む栄養評価項目に有意な変化は示さなかった.QOL評価は身体機能,心の健康,全体的健康観,活力が有意に上がった.身体機能の向上が日常的な疲労感を緩和させ,活動意欲が生まれたことで日常活動量が増加したと推察される.透析中の運動療法は身体機能の向上とともに精神心理的QOLを高めることが示唆された.
A病院精神科病棟におけるCOVID-19集団発生のリスク因子を検討した.2022年1月16日から2022年2月3日までの間,COVID-19と判明したA病院身体合併症病棟の職員および患者を対象に症例対照研究を実施した.単変量解析およびロジスティック回帰分析を行った結果,職員については放歌のある感染者ケア(AOR:11.2,95%CI:1.06-119.00,p=0.04),ケア介入数(AOR:2.4,95%CI:1.07-5.45,p=0.03),患者については同室者の放歌(AOR:21.1,95%CI:2.80-158.00,p<0.01),同室者が感染者(AOR:24.4,95%CI:3.03-197.00,p<0.01)がリスク因子として挙がった.感染者がマスクをすることで飛沫・エアロゾルからの曝露量を効果的に抑制できることが明らかとなっている.精神科病院ではマスク着用が困難な患者が多いが,一時的であればマスク着用が可能な場合もある.よって,近接するケアを行う前に患者にマスク着用を求めることが職員の曝露予防の一助となる.また,十分な換気によりエアロゾルの蓄積を防ぐとともにN95マスク着用による防護が有効と考える.
今回当院で経験した疥癬集団発生は,徹底的な追跡調査をもってしても感染源が特定できず,濃厚接触が確認できない患者間で,約1年2ヶ月にわたり通常疥癬患者が散発的に発生した事例である.皮膚状態から疥癬が否定できないすべての患者に対し予防投与を試みたが,予防投与を受けた患者のうち2名が後に疥癬を発症した.そのため,予防投与の対象範囲を拡大して集団予防投与を実施した.集団予防投与は説明と同意のもと,当該病棟のすべての患者と2ヶ月以内に当該病棟から他病棟に転棟した患者計60名を対象とし,イベルメクチンを1週間間隔で計2回投与した.患者との直接的接触が少なく,発症者が確認されていない職員は集団予防投与の対象としなかった.皮膚状態から疥癬が否定できないすべての患者に限定した予防投与を実施することについては検討の余地が残る.
精神科において,集団発生時の感染対策上の困難に焦点を当てた先行研究はほとんどなく,その実態はあまり知られていない.今回,当院の精神科慢性期閉鎖病棟でインフルエンザB型の集団発生を経験し,感染対策上の困難に直面した.一般科病棟で行われている隔離などの感染対策が通用せず,迅速検査や抗インフルエンザ薬の予防投与は拒まれ,感染制御に苦慮した.精神科においては,インフルエンザが持ち込まれてしまった場合に講じる感染対策は未だ課題が多い.病棟の患者層によってもその課題は異なってくると考える.精神科特有の状況にあわせた実践可能な感染対策の模索が必要である.
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