【目的】動的平衡機能に関連する指標の1つとして,足圧中心(Center of Foot Pressure:CFP)移動範囲の広さが挙げられるが,移動範囲の広さと同様にCFP随意移動時における動揺の特性やその規定因子について検討していくことも重要であると考える。本研究の目的は,CFP側方移動時におけるCFP及び体幹の前後方向動揺とその規定因子として考えられる下腿・足底筋活動との関係を分析し,高齢者の姿勢制御の一側面について検討を加えることである。
【方法】対象は平衡機能に問題のない健常高齢者18名(平均年齢67.6±3.0歳),健常学生14名(平均年齢21.1±2.9歳)の計32名とした。全ての対象者には実験の趣旨を説明し同意を得た後,計測を行った。被験者にはForce Plate(G-5500;anima社)上で両上肢を組んだ開眼閉足位にて安静立位保持後,任意の速さでCFPを最大限右方向へ移動する運動課題を与え,運動遂行中の体幹とCFPの動揺量を変位の標準偏差で定義した。CFP側方向最大移動距離(X-MAX)とCFP前後方向動揺量(CFP Y-SD)をForce Plateで計測し,肩峰・上前腸骨棘の前後方向動揺量(肩峰 Y-SD,ASIS Y-SD)を磁気トラッキングセンサ(FASTRACK;polhemus社)を用いて計測した。さらに運動遂行中の右側下腿筋(前脛骨筋・ヒラメ筋・長腓骨筋)と母趾外転筋の活動電位を記録し最大随意収縮時の相対値(%MVC)を求めた。これらの各データを取り込み時に同期させ記録した。得られたデータからCFP のX-MAX・Y-SD,肩峰・ASIS Y-SD,下腿・母趾外転筋活動それぞれの相関関係をPearsonの積率相関係数を用いて分析した。
【結果】高齢群でX-MAXと母趾外転筋の間に有意な正の相関を認めた(r=0.597, p<0.01)。若年群ではX-MAXと前脛骨筋の間に有意な正の相関を,肩峰・ASIS Y-SD・CFP Y-SDと母趾外転筋の間に有意な負の相関を認めた(r=-0.657, p<0.02)。
【考察】X-MAXと筋活動との相関分析の結果から,高齢群では母趾外転筋の活動が,若年群では前脛骨筋の活動がCFP側方移動距離獲得要因の一つであることが考えられた。側方移動に関する我々の先行研究において高齢者は肩甲帯と骨盤が逆相動作することが確認されていることから,骨盤の逆(左)方向移動に伴う右足部の回内運動と母趾外転筋の床把握による制動作用により足部の固定性を高め, CFP移動距離を得ていたことが考えられた。また,若年群において体幹・CFP Y-SDと母趾外転筋の間に負の相関関係を認めたことから,若年者の体幹・CFPの前後動揺成分の制御には母趾外転筋の活動が関与していることが考えられた。さらに高齢群において,CFP・体幹の前後動揺と下腿・足底筋活動に有意な相関関係を認めなかったことから,高齢者の前後動揺成分の制御には,より中枢部の筋活動が関与している可能性が示唆された。
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