Pollination constant の甘ガキの自然脱渋機構を組織学的な面より解明するために, まずその手始めとして, 果実内でのタンニン細胞の発育過程を調査し, 脱渋性との関連を検討した.
1. タンニン細胞の発育過程は, pollination constant の甘ガキ (PCNA) 果実とその他の品種群に属するカキ果実との間で顕著な差異が認められた. すなわち, pollinationvariant の甘ガキ (PVNA), 渋ガキ (PVA) 及びpollination constant の渋ガキ (PCA) の果実では, 7月下旬まで急激にタンニン細胞が肥大して巨大細胞となるのに対して, PCNA果実のタンニン細胞は6月下旬ごろよりほとんど肥大しなくなり, 小さいままで発育を停止した. また, 単位面積当たりのタンニン細胞数には,どの時期でも品種間で明確な差異が認められなかったため, PCNA品種ではタンニン細胞の肥大の停止する6月下旬以降, 単位面積当たりに占めるタンニン細胞の総面積が速やかに減少した. この減少過程は, PCNA品種の樹上での渋味の消長過程と酷似していた.
2. PCNA 6品種及びPVNA 3品種の甘ガキ果実について, 渋味の大部分が消失している8月上旬に, タンニン物質の不溶化がどの程度起こっているかを調査した. PVNA品種ではいずれもタンニン細胞が完全に凝固していたが, PCNAの‘花御所’,‘裂御所’,‘天神御所’のタンニン細胞は全く凝固していなかった. また,‘富有’,‘次郎’,‘藤原御所’においても凝固していないタンニン細胞がかなり混在しており, PCNA品種のこの時期までの渋味の減少に, タンニン物質の不溶化は直接関与していないことがわかった.
3. 以上のことより, PCNA果実の樹上での自然脱渋機構を考える時, その主たる要因はタンニン細胞の初期の発育停止によるタンニン物質の果実内での希釈効果であることが示唆された. この点, PVNA果実の脱渋機構とは根本的に異なっていることが確かめられた.
抄録全体を表示