仮想円面積比理論は, 前立腺肥大症の排尿障害の病態を明快に説明しているようにみえるが, 実際には, たとえ仮想円面積比が十分に高くても残尿のまったく発生していない肥大症が多数存在する. このような, 仮想円面積比理論に従わない症例に対して, 第1報で報告したごとく, バルーン法による前立腺部尿道圧測定を行ったところ, 排尿時の前立腺部尿道の尿水力学的環境を示す前立腺圧係数が有意に小さく, その外科的被膜も, 病的残尿を発生している肥大症のそれと比べ伸びに対する“余裕”を残していることがわかった.
今回, 第2報として, 仮想円面積比が十分に高い症例群において前立腺肥大症の外科的被膜の物理的性質が, 排尿障害の病態とどのようなかかわりをもつのかを検討するため, 外科的被膜40検体の引張り実験を施行し, その実験成績から以下のことを報告した.
1) 仮想円面積比が十分に高くて, 病的残尿を発生していない症例の外科的被膜は, その引張り応力-歪み曲線から求めた弾性率は小さく, 最大伸び率は大きい. 一方, 病的残尿を発生している症例では, その弾性率は大きく, 最大伸び率は小さい。
2) 外科的被膜の引張り応力-歪み曲線から導き出した前立腺の理論的容量内圧曲線を検討してみると, 残尿を生じない症例では平坦な曲線を描くが, 残尿を生じる症例では立ち上がりの急峻な“背の高い”曲線を描いた. すなわち, 前者では, 排尿開始時尿道内圧 (前立腺内圧) があまり上昇せず, 後者では, 急に上昇することが理論的に証明された.
これらのことより, 前立腺肥大症の排尿障害の病態は, 仮想円面積比理論と肥大症外科的被膜の物理的性質の観点から完全に解明された.
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