ミシン針による布地の貫通に伴って生ずる歪みが, 縫い縮みの原因となることは予測されていたが, 実際に縫製された試料において, それを実証した報告はみられないようである.そこでミシン針とミシン糸の貫通に伴って生ずる歪みによって, 縫い縮みが引き起こされていると思われる布地が実存することがわかったので, そのような縫い縮みに対する, ミシン針とミシン糸の影響や縫い目密度の効果等を検討した.
またミシン針だけで空縫いした布地の縮みの性質を調べて, 貫通歪みと縫い縮みとの関係を検討した.さらにまた, どのような布地の場合に, 貫通歪みによる縫い縮みが起こりやすいかについても若干の検討を行った.
本報告で得られた知見のおもなものは次のとおりである.
1) 上糸張力と縫い目密度を, 幅広く設定して縫製して得た試料の縫い縮みを検討することにより, 貫通歪みによる縫い縮みの存在を実証することができる.
2) 貫通歪みによる縫い縮みがみられる布地においては, 縫い目密度が一定の場合, 縫い縮み率
y (%) と上糸張力
x (g) との問には下の式で表される関係が成り立つ.ここで
aと
cはそれぞれ1針目の長さと縫い目密度と密接な関係がある.
y=
ax2+
c;ただし
a, cは定数
3) 貫通歪みによる, 縫い縮みの起こりやすさの指標として, 上糸張力0gという仮想的ながら一定の縫製条件での縫い縮みの値 (上の式の定数6に相当する) を用いるのが便利であり, 縫い目密度が小さい領域では0の大きさは縫い目密度に比例する.
4) ミシン糸の太さのみならず素材が, 貫通歪みによる縫い縮みに影響を及ぼし, 同じ50番のミシン糸でくらべると, 絹糸くポリエステル (f) 糸く綿糸の順にその影響が大きい.
5) 貫通歪みによる縫い縮みがみられる布地の場合の, 縫い縮みに対する縫い目密度の効果は, 上糸張力の大きさによって異なる場合もある.
6) ミシン針とミシン糸による布地の貫通歪みは, 織糸の移動と布地の起伏を伴う.
7) 貫通歪みによる縫い縮みの発生は, ミシン針で空縫いすることにより予知できる.
8) 貫通歪みで縫い縮みが起こる布地は, あらかじめ水洗することによって, その縫い縮みの発生を抑制でぎる.
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