【はじめに、目的】理学療法士としての知識・技術の習得で、卒前教育も大切であるが卒後教育も重要であることは既知である.卒後教育では目標を明確にしたOn the Job Training(以下:OJT)が有用であることから、当法人では目標管理シートとJob grade(以下:階層)評価を卒後教育に利用している.当法人での階層評価の主目的は専門職としての成長のために未達成項目を自覚することであるため、
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を考慮した上での評価を行っていた.しかし、評価が
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の影響を受けていることも考えられるため、
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が評価に与える影響について検討し今後の評価方法やフィードバックの方法も含め検討を加えることを本研究の目的とした.【方法】当法人リハビリテーション部門で使用している階層評価用紙を用い平成24年2月の評価(以下:A)と平成24年9月(以下:B)の評価を比較検討した.Aでは対象者が
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を行った用紙を評価者に提出、評価(以下:評価1)後に承認者に提出し、承認者が最終評価(以下:評価2)を行い承認者が評価者に評価2の説明を行い、対象者へのフィードバックは評価者が行った.Bでは対象者と評価者は別々の用紙に
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・評価を行い、各々が承認者に提出し、承認者が1枚にまとめた用紙をAと同様の手順でフィードバックを行った. 対象は、其々の時期に当会に在職している理学療法士・作業療法士・言語聴覚士で産前産後休暇や育児休暇中の者や時間短縮勤務で一部の評価項目に該当しないものは除外した.各階層で評価項目数が異なるため割合を求め比較した. 統計処理における有意水準は5%未満とした.【説明と同意】定期的な階層評価の実施については、入職時及び開始時に説明し同意を得て行った.【結果】対象者は、A:86名、B:90名であった.評価1と
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の割合はMean(SD)A:B 98.3%(33.6):99.3%(20.8)、評価2と
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の割合は95.2%(29.7):95.8%(18.7)、評価2と評価1の割合は96.9%(6.6):96.9%(8.8)と全てA・Bに有意な差はなかった.評価1と
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に10%以上の開きがある
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が過大・過小なものは A:19名・5名、B:23名・19名と共にBで多い傾向にあり、過小評価がBで有意に多かった.
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と評価1の評価項目の一致数の割合はA:B 96.5%(8.7):86.6%(12.3)、
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と評価2の項目一致数の割合は97.1%(8.5):89.8%(10.3)と有意な差があった.評価1と評価2の項目一致数の割合には有意な差はなかった.【考察】
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を確認しながらの評価者による評価は、全体としては
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の影響は少ないと考えられた.しかし、
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が過大評価の時と過小評価の時とでは、過大評価の場合は評価者は適切に評価できていると考えられたが、過小評価の場合は
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に影響を受け、達成項目数が少なくなる傾向があり本人が過小評価している場合は、その
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も評価の対象としていると考えられた.また、達成項目は、承認者も
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を考慮して評価していると考えられ、AとBの比較から承認者は対象者よりも評価者の意見を参考にして最終評価を決定していると考えられた.成長のためには、
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と評価との乖離が少ないことが自己分析の点からも必要であるが、その意味ではフィードバック時に評価方法の違いについて考慮したフードバックが必要になると考える.すなわち、
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を考慮せずに評価を行う場合は、評価者評価の達成率だけで階層昇格を判断するのでなく、
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との際に着目することや項目一致率を考慮し、一致項目の低いものは評価者の視点でのフィードバックを行うことで評価項目のレベルを適切に理解させる必要があると考える.
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の低いものが謙虚な思考のものもいるだろうが、適切な評価視点の育成は評価を受ける側から、評価をする側に昇格するためにも必要である.今後は、評価による昇格必須項目の設定だけでなく、
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での達成自覚必須項目の設定も検討したい.【理学療法研究としての意義】本研究により卒後教育でのOJTでの評価については、評価者により評価だけでなく評価者の視点での適切なフィードバックにより項目の難易度を理解させる必要性が示唆された.
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