2004年新潟県中越地震では初めての新幹線脱線事故が発生した.筆者らは,新幹線脱線区間の約1.5kmを対象に,約190組の高架橋橋脚周辺の地盤変状について調査・記載した.とくに次の3種類の変状(ヌケ,スキマ,ハネ)現象を観察し,各高さ,幅を計測した.すなわち,ヌケ:橋脚周りの沈下(橋脚の抜け上がり),スキマ:地面と橋脚間の隙間,ハネ:その隙間から噴き出した泥水の跳ね跡である.これらの変状現象は,地形・地質条件と密接に関係していると推定される.実際に地形条件ごとの地盤変状出現頻度をみると,段丘部で最も高く,低地部で最も低く,扇状地部でその中間を示す.段丘部は,低地部に比べて,軟質堆積物(とくにN値0〜19)が厚いためと考えられる.それ故,段丘部における基盤の深度は,低地部よりも深い(杭の長さが長い).他方,列車脱線過程を明らかにするために,列車滞留時間(TST)分布を描き,分析した.その結果,軌間拡大の始点(205k960m)がS波のTST分布の始点と一致した.さらに206k200m付近(軌間変位が40mm以上に増加し,脱線が起こった場所)が,S波主要動部であるS1からS2にかけてのTSTの最も長い時間帯の始点にあたることが分かった.これらの事実は,新幹線の脱線に関する重要な要因のひとつが,列車を襲った強震動か厚い「低N値段丘堆積物」を経て増幅されたためという考えを支持する.
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