【はじめに、目的】高齢化の進行に伴い,在宅生活を送る要介護者数は増加の一途を辿っており,主介護者の負担感に関する研究が報告されている.しかし,入院中にリハビリテーションを実施し退院された患者(退院者)を在宅で介護する介護者を対象に,退院後から追跡した調査は少ない.本研究では,リハビリテーション専門病院であるI病院退院者の主介護者を対象に,退院後の介護負担感の推移について,また,退院後の各時点における介護者の介護負担感とQuality Of Life(QoL)および退院者の応用的日常生活動作(IADL)との関連について明らかにすることを目的とする.なお,本研究は平成21~23年度
茨城県立医療大学
地域貢献研究の助成を受け実施されている研究の一部である.【方法】調査は,I病院を2009年9月から2011年12月に退院した主介護者とその退院者を対象とし,退院時に面接調査,退院後1ヶ月,3ヶ月,6ヶ月,1年で郵送質問紙調査を実施した.主介護者の介護負担感は短縮版Zarit介護負担尺度(J-ZBI_8),QoLにはSF-8の身体サマリースコアと精神サマリースコアを使用し,退院者のIADLはFrenchay Activities Index(FAI)を使用した.本研究の対象者は,継続して返信が得られた主介護者75名のうち,データの欠損がなく1年間同一介護者であった23名(男性5名・女性18名,退院時平均年齢56.0±11.5歳)とした.なお,退院者23名は,性別(男性17名・女性6名),年齢(平均60.1±11.7歳),主疾患(脳血管疾患18名,脊椎・脊髄疾患3名,その他2名),ADL(退院時FIM運動70.4±22.9点,認知30.7±5.4点)である.分析は,主介護者の介護負担の推移を確認するため,退院後各時点でのJ-ZBI_8得点の比較を行った(Kruskal-Wallis検定).さらに,退院後各時点での介護負担感とQoL,退院者のIADLとの関係を確認するために,従属変数をJ-ZBI_8,独立変数をSF-8,FAIとし相関関係を確認した(Spearman順位相関).統計解析はSPSS statics20を用い,有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究は
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倫理委員会にて承認を受け実施された.対象者に対し口頭で説明を行い,書面にて同意を得た.【結果】J-ZBI_8の平均得点は,退院後1ヶ月8.4±6.7点,3ヶ月7.5±5.9点,6ヶ月7.5±5.9点,1年7.6±6.2点であり,各時点において有意差を認めなかった.退院後の各時点でのJ-ZBI_8とSF-8との関連性は,身体サマリースコアとの間に有意な相関はなかったが,精神サマリースコアとの関係において,退院後1ヶ月r=-0.70,3ヶ月r=-0.72,6ヶ月r=-0.82,1年r=-0.59と,全ての期間で有意な相関を認めた(p<0.01).また,退院後の各時点でのJ-ZBI_8とFAIでは,退院後3ヶ月r=-0.49,6ヶ月r=-0.52と有意な相関を認めた(p<0.05).【考察】主介護者の介護者負担感は,各時点での得点に有意な差が認められなかった.標準偏差値も高く,時間経過による推移も一定の傾向を示さなかったことから,変動しやすい性質をもつことが推察された.介護者負担感とQoLとの関係については,J-ZBI_8と身体的サマリースコアの間に有意な相関は認められなかった.対象者が比較的ADLの自立度が高い者であることから,介護者への身体的な影響が少なかったと考えられる.一方で,精神的サマリースコアにおいては,全ての期間で強い負の相関が認められた.また,介護負担感とIADLとの関係については,退院後3ヶ月と6ヶ月において負の相関を認めた.以上のことから,比較的ADLの高い退院者の介護においても,IADL制限により介護負担感が生じ,主介護者の精神的健康に影響を及ぼす可能性が考えられた.本研究者は,以前の研究で主介護者の自由記述から在宅生活の問題点の推移について調査を行い,退院後3ヶ月,6ヶ月時点にて主介護者からの今後の生活に対する不安の訴えが多くなる傾向があることを報告した.今回の結果でも,同時期に介護負担感と退院者のIADLに相関を認めたことから,退院者のIADLの変化に伴い介護者も家庭内役割を変化させる必要性が生じ,特に退院後3~6ヶ月時点においては,介護負担感が生じやすい時期であることが示唆された.【理学療法学研究としての意義】理学療法士は積極的に生活機能再獲得向けた介入を行っていくことで,介護負担感の軽減が図れることが示された.
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