本研究の目的は,子どもの公共事業の経済的な理解をめざして,「
費用便益分析
」を批判的に組み込んだ小学校公民学習(第6学年「国道176号線 名塩道路と政治の働き」)の授業モデルを開発することである。
社会科授業は,社会諸科学の研究成果を基盤とした社会認識の形成が目標の一つである。また,あらゆる分野において経済活動が行われる現実社会を学習対象としている。したがって,たとえ小学校段階の社会科であっても,経済学の研究成果を的確に授業に組み込み,科学的な社会認識の形成をめざす必要がある。第6学年公民学習「我が国の政治の働き」では,経済的な内容として,租税の役割を取り扱うよう示されている。しかし,現行の教科書では,税金の種類や使途が紹介される程度にとどまっている。
そこで,「国道176号線 名塩道路」とそれに関する政治の働きを教材化して,
費用便益分析
を批判的に組み込んだ授業モデルを開発した。
費用便益分析
とは,事業全体の費用と便益を比較し,公共事業の採択や中止を判断するための評価方法である。政治の学習に
費用便益分析
を組み込むことで,従来の「人々の願いを国や地方公共団体が受け入れ,政治のプロセスを経て実現する」という一面的な理解に,
費用便益分析
に関する経済的な理解が追加され,科学的な社会認識の形成が実現する。
本研究の意義は,次の2点である。1点目は,
費用便益分析
の有効性と問題点双方に着目した小学校公民学習の構成を明示したことである。2点目は,便益額と費用額の算定プロセスを図解し,難易度の高い用語には意味内容を補足して示すという,
費用便益分析
を小学校第6学年段階の子どもでも理解できるように変換する手立てを明らかにしたことである。
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