Ⅰ はじめに
戦後,日本では大学
進学
率が上昇し,同年齢人口の50%以上が大学に
進学
するようになった.大学
進学
は多くの人々にとって重要なライフイベントとなり,「どこの大学に
進学
するか」という進路選択は,私たちにとってより一般的な問題になったといえる.
しかし,大学教育の供給には地域間格差があるため,大学
進学
率にも地域間格差がある.とりわけ,1990年以降は,大学教育の供給の地域間格差の拡大が大学
進学
率の地域間格差を拡大したとの見方が有力である.大学教育の供給が相対的に少ない地域では,経済的・心理的な制約を乗り越え,県外に
進学
することができるか否かが大学
進学
の重要な要素の1つとなる(朴澤2016など).
以上のような点を踏まえ,大学
進学
移動について議論するにあたっては,川田(1992)のような空間的な視点が拠り所となる.しかし,管見の限り,日本全国を俯瞰する大学
進学
移動の地理学的研究は川田(1992)以降,研究蓄積が少なく,1990年以降の動向については議論の余地がある.
Ⅱ 研究目的・方法
以上より,本発表の目的を,1990年以降の大学
進学
移動の変化の実態を明らかにすることとする.また,本発表では,それらの変化の要因について,既存の調査や先行研究に依拠しながら,仮説生成を試みる.
データには主に,『学校基本調査』の「出身高校の所在地県別入学者数」を用いた.当該データからは,大学
進学
移動に関する都道府県別のODデータを入手することができる.分析手法は,川田(1992)に倣った.具体的には,都道府県別に,収容率
1)・占有率
2)・吸引圏
3)・
進学
先の割合
4)等を算出し,大学教育の供給および大学
進学
移動の変化の実態について整理した.
Ⅲ 結果および当日の議論
1990年と2020年の両年において,東京圏5),京阪神圏,広域中心都市を擁する宮城県や福岡県などが,比較的広域から大学
進学
者を集めることに変わりはない(図1).ただし,43道県では東京圏への
進学
率が低下していることがわかった.吸引圏10%でみた場合,その吸引圏は縮小し,東京圏に10%以上流出する都道府県は34道県から20道県へ減少していた.
他方,県内
進学
率は41都府県で上昇していた.また,収容率の変化分と県内
進学
率の変化分には,有意な正の相関関係が確認された(R
2=0.43,p<0.01).他方,県内
進学
率の変化分と県外地方圏(自県以外の地方圏)への
進学
率の変化分には有意な負の相関関係が見出された(R
2=0.49,p<0.01).県内
進学
率が上昇しなかった地域では,
進学
先としての県外地方圏の位置付けがより上昇したと考えられる.大学
進学
移動の空間的特性,移動方向性,他の指標の関係性,属性別(設置主体別・男女別),の詳細な分析結果については当日に提示,議論したい.
注
1)収容率=ある都道府県における大学入学者数÷大学
進学
者数×100,2)占有率=ある都道府県における県内
進学
者数÷大学入学者数×100,3)吸引圏とは,ある都道府県が,特定都道府県の大学
進学
者の一定割合以上を吸引している圏域のことをいう.,4)
進学
先の割合=特定地域への大学
進学
者数÷大学
進学
者数×100,5)便宜的に大都市圏を東京圏(埼玉県・千葉県・東京都・神奈川県)・名古屋圏(岐阜県・愛知県・三重県)・京阪神圏(京都府・大阪府・兵庫県・奈良県)とする.そして,それ以外の日本の地域を地方圏とする.
文献
川田 力 1992. わが国における教育水準の地域格差-大卒者を中心として.人文地理44: 25-46.
朴澤泰男 2016.『高等教育機会の地域格差-地方における高校生の大学
進学
行動』東信堂.
抄録全体を表示