72歳という高齢で
重症筋無力症
を併発した女性糖尿病患者の症例を報告する.
患者は, 35年間の糖尿病歴を有し, 昭和56年4月下旬, 突然, 複視を自覚し, やがて右眼瞼下垂の出現をみた.これらの症例は, 起床時は軽度で, 夕方に増悪する傾向があった.同年5月1日に当科入院し, 精査の結果, 胸腺腫を伴った
重症筋無力症
と診断され, 抗コリンエステラーゼ剤pyridostigmine bromideの投与を開始した.5月下旬, myasthenic crisisとともに心筋梗塞を併発した.6月中旬より副腎皮質ホルモンを併用し, 7月中毎に, 症状は改善した.しかし, 9月上旬より複視, 眼瞼下垂が再現し, 副腎皮質ホルモンの増量に対しても不応のため, 10月7日, 胸腺摘出術を施行した.術後, 一時症状軽快したが, 11月中旬より再燃したため, 12月1日より血漿交換療法を開始し, 2回施行後, すべての症状は消失した.以後, 2週間間隔の血漿交換療法と副腎皮質ホルモン, pyridostigmine bromideの併用で経過良好であったが, 昭和57年4月中旬より眼瞼下垂が出現したため, 血漿交換療法を頻回施行, さらに6月より, azathiopurineも併用, 9月には, 家庭生活が可能となった.
経過中, 抗アセチルコリンレセプター抗体の測定を, 随時行ったが, その増減は, 臨床症状と一致し, 血漿交換療法施行後, 著しい減少を示した.
なお, 経過中, 糖尿病のコントロールはインスリンで良好に保たれ, 細小血管症の増悪は認めなかった.
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