1.はじめに
放射性廃棄物処分の安全評価では、将来長期の地形変化の予測が不可欠である。侵食量の大きい河川侵食をモデル化する方法の一つに、河床縦断形に対する地形解析がある。これは、岩盤河川に対する侵食モデル(ストリームパワーモデル)と河川形状を比較することで、モデルの成立範囲や平衡状態(隆起速度≒侵食速度)からのずれ、地殻変動・地質等の情報を推定するものである。さらにこれらの条件が一定なら、流域毎の長期的な平均侵食速度(宇宙線生成核種(TCN)を用いた測定)との比較により、モデルのパラメータも推定できることが示されている(Lague et al., 2014)。しかし、TCN法の適用は石英を多く含む地質に限られ、国内で一般的に見られる堆積岩地域に本手法を適用するためには、検証が必要であった。 本研究では、海成段丘(MIS5e, 7, 9)が広く分布し侵食速度の推定が可能な、上北地域(堆積岩地域)を対象に河床縦断形解析を行い、河川侵食モデルの推定可能性を検討した。
2.研究方法・対象地域
河川は一般に、崩積・岩盤・沖積域と複数の区間で構成され、概略的には河床勾配(S)と流域面積(A)の関係(SAプロット)で特徴付けられる(図1; Wang et al., 2017)。岩盤河川の区間では、侵食速度(E)はE(x) = KAmSnで表され(x:流下長、θ = m/n:凹型度)、log(S)とlog(A)は比例する。係数Kは地殻変動・地質・気候の影響を含むが、これらが一定であれば、河川の急峻さksn = SAθref ∝ (E/K)1/n(θref:θの地域平均値)を侵食速度Eと比較することで、パラメータnを推定できる。
そこで、隆起速度(~0.3 mm/y)・地質(更新世中期~前期堆積岩)が比較的一様な、上北地域(約25×40 km2)を対象に解析を実施した。解析には国土地理院の数値標高モデル(5m・10mメッシュ)を用い、空間分解能の影響を整理した。侵食速度Eは、(海成段丘の復元面(接峰面)-河床高)÷段丘面形成年代として、近似的に評価した。
3.結果と考察
流域解析で抽出した50流路のうち、戸
鎖川
(形成時期:MIS9)のSAプロットを図2に示す。上流側(
A~10
4~10
6.5 m
2以上)では線形の関係が見られ、ストリームパワーモデルの成立性が示唆される。区間内には直線性から外れる点(遷急点)が認められるが、10mDEMで見られるばらつきが5mDEMでは解消されたことから、遷急点の特定にはより精度の高い5mDEMが適切と考えられる。ただし、河川全体の傾向(
θおよび
ksn(区間内平均値))には、DEM精度による顕著な違いは見られなかった。各河川の
θはばらつくが、形成年代が古いほど
θref = 0.45(平衡河川に対する代表値; Kirby and Whipple, 2012)に近づく傾向が見られ、非平衡状態である対象地域も徐々に従順化が進んでいると推測された。さらに、岩盤河川区間内の侵食速度
Eと
ksnの平均値は、高い相関(
n = 1.3)を示した(図3)。これは、TCN法に基づく侵食速度を用いた先行研究の推定幅(
n = 1~2; Lague et al., 2014)に収まっている。以上より、堆積岩地域でも段丘面を活用することで、河床縦断形解析によって河川侵食モデルの成立性の確認やパラメータ値の推定が可能なことが示唆された。
謝辞:研究を進める上で、東京大学の須貝俊彦教授に多々有益なご意見を頂いた。本研究は原子力規制庁「令和4年度廃棄物埋設における環境条件の評価に関する研究事業」の成果の一部を含む。
参考文献:Lague et al. 2014, ESPL, 39, 38–61.; Wang et al. 2017, Earth Surf. Dynam., 5, 145–160; Kirby and Whipple 2012, J. Struct. Geol., 44, 54–75.
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