1. はじめに
2020年の東京オリンピック開催を控え,スポーツツーリズムへの関心が高まっている。スポーツ参加型のスポーツツーリズムのうち,日本の特徴的なものとして,スポーツチームがスポーツ活動に適した環境を求め各地を訪問するスポーツ合宿がある。これまでスポーツ合宿地の発展に関する先行研究がなされてきたが,それらは民宿集積地区を中心としたミクロケールの分析に留まる。また近年では,政府により観光圏の設置や地域連携DMOおよび広域連携DMOの設置が進むなど,観光振興における地域間連携への関心が高まっている。そこで本研究では,複数のスポーツ合宿地が近接する地域におけるスポーツ合宿の特性について分析した上で,そうした地域間連携がどのように機能するのかを検討する。
研究対象地域としたのは,主にサッカーを目的としたスポーツ合宿が実施される茨城県南東部の
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南部である。スポーツ合宿地としての領域を考慮し,波崎エリア,神栖エリア,鹿島エリアの旧3市町村を分析対象とした。なお,
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南部には地域連携DMO候補法人である「アントラーズホームタウンDMO」が設置され,その主要事業としてスポーツ合宿の推進が行われる。
2.
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南部におけるスポーツ合宿の性格
波崎エリアでは,1990年頃から民間宿泊施設によりサッカーグラウンドを中心としたスポーツ施設の設置が行われ,その際に積極的な農地転用が行なわれた。また,エージェントによるスポーツ大会の開催と送客が重要である。現在では宿泊者はほぼ全てスポーツ合宿客であり,そのほとんどがリピーターである。
神栖エリアでは,1970年頃の鹿島開発により,春季の大規模工場整備の派遣工員を主要な客層とした宿泊施設が設置された。現在はそれらの宿泊施設により,春季以外の閑散期を補うためにスポーツ合宿の受け入れが行われる。宿泊施設によるスポーツ施設の所有は通年を通した管理が困難であるため行われず,スポーツ合宿の際には公共スポーツ施設が用いられる。また,スポーツ合宿の推進に際し,スポーツツーリズム推進室が設置され,行政と民間の協力関係が構築される。
鹿島エリアでは,少数の宿泊施設でスポーツ合宿の受け入れがなされ,大規模投資が行なわれた宿泊施設の存在が大きい。また,近年はDMOによりプロサッカーチーム鹿島アントラーズのブランド力を利用した,アジア諸国からのインバウンド合宿が行なわれ,新たなスポーツ合宿の形態が認められる。
3. スポーツ合宿地における地域間連携の可能性
近接した3つのスポーツ合宿地において,スポーツ合宿への依存度および他産業との関わりがそれぞれ異なる。
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南部内での地域間連携は,波崎エリアのスポーツ大会時の神栖エリアへの送客,鹿島アントラーズ関連の大会の波崎エリアでの実施,地域連携DMOであるアントラーズDMOの設置が確認できたが,その重要性はスポーツ合宿全体の規模からすれば大きくない。スポーツ合宿において地域間連携の重要性が低い理由としては,スポーツ合宿におけるツーリストの行動範囲が宿泊施設とスポーツ施設に限定される点,スポーツチームとってはリピートによるマネジメント業務軽減が重要視され,スポーツ合宿地が地域間連携によって新たな魅力を提供する必要性に乏しい点が指摘できる。
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