近年のわが国の医療の中で, 大きく変わったものを挙げるとすれば, 情報開示の問題がまず第一に取り上げられよう. 癌治療の分野では, 「癌という病名を本人には告知しない…」という1960年代の常識は完全に過去のものとなった. 診療録の開示も, 平成13年4月に全国の国立病院が―斉に開示に踏み切ったことから, 多くの病院で実行されるようになった. このような情勢を踏まえて, 本シンポジゥムでは「情報開示のあり方」をできるだけ多角的な視点で捉えることを試みた.
まず第一の視点は情報を管理, 保管する立場の診療録管理士, 医事課職員からの視点である. 開示のための必須条件である診療録の記載, 保管そのものにまだまだ多くの問題が山積していることがシンポジストの発言からご理解いただけると思う.
第二の視点は情報開示が診療に直接的に影響する精神科領域と, 患者のプライバシー保護が最優先に考えられているエイズ診療の現場からの見方である. 本シンポジウムでわかってきたものは, 精神分裂病における複雑性(病名告知率20%)とHIV患者のプライバシー保護が患者家族の医療不信を招きかねないと言う現実であった.
第三の視点は看護師からの視点である. 看護記録が全体の80%以上を占める診療録の存在が決して珍しくないというわが国の現状を考える時, 看護記録の大切さはよく認識していただけると思う.
第四の視点は, 開示を請求した患者の視点からの問題提起である. ジャーナリストとして情報開示問題に取り組む立場と, 進行癌患者としてカルテ開示を請求した患者の立場, この2つを同時に経験された得難い人物にシンポジストとしてご参加いただけたことは, 本シンポジウムの大きな収穫であったと考えている.
シンポジウムのテーマが「情報開示のあり方」というきわめて社会的な問題であるため, 各シンポジストの記述も, このまとめの言葉も通常の医学論文のパターンを大きく逸脱するものとなったが, テーマの特殊性からご寛恕いただきたいと考えている.
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