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  • 三好 隆博, 岸本 泰明,
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    グループ
    日本物理学会講演概要集
    2000年 55.1.2 巻
    発行日: 2000/03/10
    公開日: 2018/03/04
    会議録・要旨集 フリー
  • *増田 隆博
    次世代薬理学セミナー要旨集
    2023年 2023.2 巻 2023.2_AG-6
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/14
    会議録・要旨集 フリー

    脳と脊髄から成る中枢神経系組織は、多種多様な細胞によって構成され、それらの複雑かつダイナミックな相互作用によって高度な機能が維持されている。その中でも、脳内免疫を担う脳内マクロファージは、実質に存在するミクログリアと、髄膜や血管周囲空間といった境界領域に存在する脳境界マクロファージに大別され、それぞれが脳の形成や組織の恒常性維持に重要な役割を果たしている。近年、1細胞解析等の研究技術の革新に伴って、これまでの明らかになっていなかった脳内マクロファージの発生・維持機構や多様性、さらには病態特異的なサブタイプの存在が次々に明らかになってきている。我々は最近、ヒトおよびマウスミクログリアの多様性および高度な可塑性を明らかにし、さらに多発性硬化症等の疾患特異的に出現するヒトミクログリアサブタイプを世界で初めて同定した。一方、脳境界マクロファージは、これまでほとんど研究が進んでいない第2の脳内マクロファージであるが、我々は独自に開発した特異的細胞機能操作ツール等と用いて、全く知られていなかった脳境界マクロファージの形成・分布メカニズムを明らかにしてきた。本講演では、研究技術の革新に伴って急速に理解が進む脳内マクロファージについて、特にその発生学的特性や疾患治療標的としての可能性という観点から、最新の知見を交えてお話ししたい。

  • *船水 章大
    次世代薬理学セミナー要旨集
    2023年 2023.2 巻 2023.2_AG-5
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/14
    会議録・要旨集 フリー

    私達の研究は,脳の意思決定の神経基盤の候補として,機械学習のアルゴリズムに注目している.脳活動と機械学習の共通点や違いを,マウスで検証する.私達の最近の研究では (Ishizu et al, bioRxiv, 2023),マウスで,感覚刺激と報酬情報を統合する大脳新皮質の回路に注目した.ベイズ推定では,曖昧な感覚刺激に基づく行動決定では,感覚刺激だけでなく,報酬量や感覚刺激の予測 (事前知識) が,行動の最適化に重要である.このとき事前知識は,将来の行動の更新のために,脳内で保持される必要がある.意思決定の神経基盤検証で,従来研究の多くは,単一の脳領野の神経活動に注目した.そのため,大脳新皮質の複数領野が,どのように事前知識と感覚刺激を統合し,行動に結びつけるかは不明瞭である.本研究は,頭部固定マウスで,音周波数弁別課題を実施し,内側前頭前野・運動野・聴覚野の神経活動を電気生理学的に計測した.

     音周波数弁別課題でマウスは,音刺激の周波数 (低・高) に応じた左・右スパウトの選択で,報酬のスクロース水を得た.同課題は,事前知識の導入のために,左右スパウトの報酬量を約100試行で切り替えた (報酬量バイアス:3.8-1.0 ulから1.0-3.8 ul, 左-右).また,事前知識と感覚刺激のバランス操作のために,音提示時間を0.2秒・1.0秒用意した (音の不確実性操作).音提示時刻が1.0秒の長音試行の場合,0.2秒の短音試行に比べて,マウスの周波数弁別は正確であり,報酬量依存の行動バイアスも少なかった.この結果は,マウスが音の周波数だけでなく,音の長さや報酬量に依存して,行動を選択することを示す.

     上記の課題時に,内側前頭前野・聴覚野・二次運動野の神経活動を,Neuropixels 1.0で計測した.内側前頭前野の細胞群は,事前知識と感覚情報を統合し,行動選択に重要な価値関数を表現した.一方,聴覚野と二次運動野の細胞集団は,それぞれ,音刺激と行動選択を選択的に表現した.これらは,マウスの大脳新皮質による局所表現を示唆する.一方,機械学習での神経活動解析は,3領野全てによる事前知識表現を発見した.これらの結果は,大脳新皮質が局所表現・大域表現の両方で,ベイズ型行動選択を表現することを示唆する.

     上記の研究成果とともに,今回の発表では,音周波数弁別課題時のマウスの身体運動を,実時間駆動の人工神経回路網 (Recurrent neural network) でモデル化する試みを紹介する.この研究は将来,パソコン上で脳の神経回路を再現する「Mouse digital twin」を目指している.

  • *倉内 祐樹
    次世代薬理学セミナー要旨集
    2023年 2023.2 巻 2023.2_AG-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/14
    会議録・要旨集 フリー

    私たちは天気の移り変わりを感知してその変化に適切に対処できるが、唯一、気圧の変化に対処する術はなく、体調不良を感じても何もできない。これは、気圧変化がもたらす“えも言われぬ感覚”を私たちが理解できていないからである。この感覚を明らかにするためには、気圧変化の情報を感知・処理する一連の生体システムをそれぞれ理解しなければならないが、そもそもの疑問は、“気圧が変化すると、本当に私たちの体の中では何か変化が起こっているのか?”である。我々はこれまでに、独自開発した気圧変動実験系と、自由行動条件下でのリアルタイムモニタリングデバイスを活用し、気圧変動と生体パラメーター変動の関係性について研究を進めてきた。本シンポジウムでは、脳内に埋植できる超小型CMOSイメージングデバイスによる脳血流モニタリング、熱電対デバイスによる脳温モニタリング、そして心電図デバイスによる心拍変動モニタリングの結果について紹介する。特に、個体差・性差に関する情報を共有し、気圧変動を感知・処理する生体システムについて議論したい

  • *矢吹 悌, 塩田 倫史
    次世代薬理学セミナー要旨集
    2023年 2023.2 巻 2023.2_AG-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/14
    会議録・要旨集 フリー

    プリオン性タンパク質の一つである α-シヌクレイン (αSyn) の封入体はシヌクレイノパチー (パーキンソン病、レビー小体型認知症など) の神経病理学的特徴であるが、細胞内における αSyn 凝集機構は不明である。これまでに私達は、核酸高次構造であるグアニン四重鎖 RNA (RNA G-quadruplex; G4RNA) が遺伝性神経変性疾患である脆弱X関連振戦/失調症候群 (FXTAS) の発症に関わるプリオン性タンパク質のゾル-ゲル相転移を誘導し、凝集体形成を促進することを見出した (Sci Adv. 2021)。本研究では、G4RNA が αSyn ゾル-ゲル相転移を起こし、神経変性を誘導することを見出した。αSyn 凝集シーズである preformed fibril (PFF) を神経細胞に処置すると、リン酸化陽性の凝集体となる前に P 顆粒と呼ばれる液-液相分離 (LLPS) 体に局在することがわかった。精製 αSyn は分子クラウディング条件下において単独で液滴を形成し相分離するが、細胞から抽出した RNA を処置するとゾル-ゲル転移した。 RNA Bind-n-seq 及びゲルシフトアッセイ解析から、精製 αSyn は G4RNA に特異的に結合し、G4 構造を形成しない RNA にはほとんど結合しなかった。また、G4RNA を添加することで αSyn はゾル-ゲル相転移を引き起こし、凝集体を形成した。細胞実験において、αSyn は PFF 処置によりG4RNA と共凝集するが、それに先駆けてG4RNA 顆粒が細胞内で増加・肥大化していた。この結果は、細胞ストレスによる G4RNA 増加・会合がα-Syn 凝集の足場を形成する可能性を示唆している。そこで、培養神経細胞およびマウス黒質ドパミン神経細胞において光遺伝学的手法を用い G4RNA を会合させたところ、内在性 α-Syn が共凝集し、神経機能障害が誘導された。さらに、RNA 免疫沈降シーケンス解析により、αSyn 凝集に寄与する内在性 G4RNA を同定した。最後に、G4 作用薬は G4RNA による αSyn 凝集を抑制し、神経機能障害が改善した。これらの結果は、G4RNA 相転移が αSyn 凝集による病原性獲得のキーファクターであることを示唆している。

  • *森本 悟
    次世代薬理学セミナー要旨集
    2023年 2023.2 巻 2023.2_AG-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/14
    会議録・要旨集 フリー

    筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、RNA結合タンパク質であるTDP-43の異常局在や蓄積を特徴とする神経難病である。我々は、ALS患者iPS細胞由来運動ニューロンおよび既存薬ライブラリーを用いることで、ALS運動ニューロンにおけるTDP-43の異常および細胞障害を改善する薬剤として、ロピニロール塩酸塩(パーキンソン病の治療薬として用いられている、ドパミンD2受容体アゴニスト)を同定した(ドラッグリポジショニングおよびiPS細胞創薬)。さらにロピニロール塩酸塩は、孤発性ALS患者モデルの約70%程度の効果を示すことも併せて確認した。また、トランスレーショナルリサーチとして、ALS患者に対するロピニロール塩酸塩を用いた医師主導治験(ROPALS試験)を実施し、その安全性と忍容性、さらにはALS患者の運動機能を改善する効果を確認した。これにより、iPS細胞創薬の臨床PoCを取得し、TDP-43の恒常性を維持することの臨床的意義が示された。しかしながら、当該試験において、ロピニロール塩酸塩に対するresoponderとsuboptimal responderの存在が明らかとなった。そこで、リバーストランスレーショナルリサーチとして、全治験参加ALS患者からiPS細胞を樹立、運動ニューロンを作製してロピニロール塩酸塩を処置したところ、in vitroにおいてもresoponderとsuboptimal responderが存在し、それらは由来患者の薬剤反応性と良く相関することが明らかとなった。さらに、疾患進行や薬剤の効果を反映するサロゲートマーカーとして、ニューロフィラメント軽鎖(NF-L)や過酸化脂質を同定した。これらの結果により、ROPALS試験は、ヒト疾患iPS細胞を用いたモデリングや創薬に対する試金石と言える。

  • *木瀬 孔明
    次世代薬理学セミナー要旨集
    2023年 2023.2 巻 2023.2_AG-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/14
    会議録・要旨集 フリー

    多くのイオンチャネルは制御サブユニット(auxiliary subunit)と複合体を形成することで多様な生理的機能を獲得する。我々は、これまでに電位依存性K+チャネルKv4複合体の電位依存性とゲート開閉の機能制御機構をクライオ電子顕微鏡によって明らかにした(Kise et al., Nature, 2021)。今回は、電位・Ca2+依存性K+チャネルSlo1複合体の電位依存性、Ca2+依存性の制御機構を報告する。Slo1はβ1-4やγ1-4制御サブユニットと複合体を形成し、電位・Ca2+依存性やキネティクスが多様に変化する。特に一回膜貫通型タンパク質γ1がSlo1と複合体を形成すると、電位依存性が大きく過分極側へとシフトすることで、非興奮性細胞においてもSlo1が機能する。Slo1-γ1複合体は分泌上皮細胞などで発現し、分泌液中にK+を放出することで免疫機能などに関わることが示唆されている。本研究では、Slo1-γ1複合体のクライオ電子顕微鏡構造解析と電気生理学的解析によってγ1によるSlo1の制御機構を明らかにすることを目指した。その結果、γ1の膜貫通領域がSlo1の電位センサードメインと相互作用し、これまでに報告されている電位依存性イオンチャネル複合体とは異なる機構で電位感知の中心的役割を担うS4ヘリックスを脱分極状態で安定化していることが分かった。また細胞内領域ではγ1のArgクラスターがSlo1のCa2+センサードメインと相互作用し、Ca2+結合状態を安定化することによって、Slo1の電位依存性が制御されることが分かった。さらに、これらの相互作用によって、γ1が従来知られていた電位依存性だけでなく、Ca2+依存性も制御することを明らかにした。

    また、我々のクライオ電子顕微鏡を用いた創薬への取り組みについても紹介する。

  • *須田 雪明, 葛巻 直子, 成田 年
    次世代薬理学セミナー要旨集
    2023年 2023.1 巻 2023.1_AG-5
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/03/31
    会議録・要旨集 フリー

    がん悪液質は、がん患者の晩期において多く認められ、体重減少や食欲不振、サルコペニア、うつや不安の亢進といった心身の脆弱化に加え、急激な生存不能状態を惹起させるため、治療法の開発が急務である。がん悪液質病態を統合的に理解するためには、がん組織や腫瘍微小環境などの変容ばかりに囚われず、脳を仲介する円環的な末梢-脳-末梢ネットワーク異常による全身病態増悪化機構の解析が求められる。がん悪液質病態下では、血中において炎症性サイトカインの過剰分泌が引き起こされ、全身性炎症状態を呈することが知られている。また、こうした全身性炎症反応には、腸内細菌叢の変化や腸管バリア機能の破綻を伴い、腸管から流出される内毒素である LPS の増加が一部関与していると考えられる。こうした末梢組織における炎症性シグナルは、血液脳関門が比較的ルーズな視床下部領域に伝達され、炎症を伴った脳機能低下を引き起こすことにより、円環的に全身症状の悪化を加速させる可能性が想定される。一方、脳内において神経細胞を取り巻くように豊富に存在するグリア細胞は、免疫担当細胞のようにサイトカインやケモカイン等の発現を誘導、遊離、受容することで神経系細胞間相互作用を調節する役割を担っている。さらに、グリア細胞は、神経細胞とは異なり、増殖能を有していることから、末梢からの炎症性シグナル入力に応答し、形態や機能を動的に変化させ、脳内でのシグナル増幅に寄与する可能性が推察される。そこで、本講演では、がん悪液質病態下における視床下部内グリア細胞変容を中心とした末梢-脳-末梢円環的ネットワーク破綻による全身病態増悪化機構について、細胞分取技術を応用したグリア細胞特異的遺伝子発現変動解析や脳内メタボローム解析など様々なアプローチにより得られた最新の知見について紹介する。

  • *谷口 将之
    次世代薬理学セミナー要旨集
    2023年 2023.1 巻 2023.1_AG-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/03/31
    会議録・要旨集 フリー

    社会や孤独から受けるストレスは、抑うつや不安亢進など認知情動変容を引き起こし、精神疾患病態に深く関わる。ストレスを受けた動物や精神疾患患者ではミクログリアを起点とする脳内炎症が生じ、情動変容の原因となることが示唆されている。しかしストレスによるミクログリアの変化の実態は不明である。我々はマウスの社会ストレスモデルを用い、前頭前皮質、側坐核、運動野・体性感覚野、海馬、視床下部からミクログリアを単離し、一細胞RNA-seq解析に供した。その結果、ストレスが複数の脳領域のミクログリアに共通した遺伝子発現変化を誘導すること、この広域的変化の一部はストレス感受性の個体差と相関することを見出した。前頭前皮質と側坐核のミクログリアの遺伝子発現をより深い深度で調べたところ、ストレスによるミクログリアの遺伝子発現変化には、両方の脳領域で生じる広域的変化と脳領域選択的な局所的変化に分類され、この広域的変化には、急性ストレスとストレス感受性に対応して慢性ストレスに応答する変化と、慢性ストレスのみに応答する変化が存在することを見出した。これまで当教室ではミクログリアの活性化における自然免疫受容体TLR2/4の重要性を示していたことから、TLR2/4-DKOにおけるストレスによるミクログリアの遺伝子発現変化を調べたところ、広域的変化のうち、慢性ストレスのみに応答する遺伝子発現変化のみが消失することを見出した。さらに、これらの転写制御のメカニズムに迫るため、スーパーエンハンサーのnucleosome-free領域に濃縮する転写因子結合モチーフを解析したところ、広域的変化と局所的変化には異なる転写因子が関与し、広域的変化のうち急性ストレスとストレス感受性に対応して慢性ストレスに応答する遺伝子発現変化にはグルココルチコイド受容体が関与することを見出した。以上の結果は、血液由来の複数のストレスシグナルが、グルココルチコイド受容体とTLR2/4を経由してミクログリアの転写・エピゲノム状態を変化させ、認知情動変容を促す可能性を示唆している。本シンポジウムでは、これらストレスによるミクログリアの転写・エピゲノム変化について最新の知見を紹介し、精神疾患病態への関連性を議論したい。

  • *藤川 理沙子, 神野 尚三
    次世代薬理学セミナー要旨集
    2023年 2023.1 巻 2023.1_AG-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/03/31
    会議録・要旨集 フリー

    最近の研究から社会的ストレスの影響を受けにくい人々の存在が示されていて、「ストレス抵抗性」に注目が集まっている。うつ様モデル動物として用いられている社会的敗北ストレスモデルマウスにも、ストレスに対して脆弱な個体と抵抗性を示す個体が存在することが明らかにされている。しかし、ストレス抵抗性の差異を生み出すメカニズムの詳細は不明である。本研究で我々は、脳の免疫細胞であるミクログリアとストレス抵抗性の関連について検討した。実験では、大型のICRマウスに小型のC57BL/6J (B6) マウスを攻撃させ、身体的ストレスを与える社会的敗北ストレスモデルマウスを用いた。ストレスに暴露したB6マウスを、ストレス脆弱性群と抵抗性群に分け、海馬ミクログリアの形態学的検討を実施した。オプティカルダイセクター解析では、脆弱性群のB6マウスでのみ、海馬CA1領域のミクログリア空間分布密度が増加していることが示された。三次元再構築から得られた形態学的パラメータのクラスター解析により、脆弱性群のB6マウスでは、複雑性が低下したamoeboid様のミクログリアが増加していることが明らかとなった。一方で抵抗性群のB6マウスでは、複雑性が増加したhyper-ramified様のミクログリアが増加していた。シナプスとミクログリアのコンタクトは、抵抗性群でのみ増加していた。これらのことから、ストレス抵抗性の違いを生み出すメカニズムには、海馬ミクログリアの形態学的フェノタイプの差異が関わっている可能性が考えられる。

  • 髙橋 浩平, 黒川 和宏, 宮川 和也, 持田(斎藤) 淳美, 武田 弘志, 辻 稔
    次世代薬理学セミナー要旨集
    2023年 2023.1 巻 2023.1_AG-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/03/31
    会議録・要旨集 フリー

    オリゴデンドロサイトは、脳内において神経軸索でのミエリン形成を担い、脳神経伝導の高速化や修飾に寄与している。近年、うつ病患者の死後脳では様々な脳部位でミエリン構成タンパク質の減少が認められることが明らかにされ、うつ病の病態生理におけるミエリン並びにオリゴデンドロサイトの重要性が注目されている。

     社会的敗北ストレスや社会的孤立ストレスを慢性負荷したうつ病モデルでは、前頭前皮質におけるオリゴデンドロサイトの分化異常、並びに脱髄やランビエ絞輪の形成異常が生じることが報告されている。一方、これら基礎研究で用いられているストレスの強度は多岐に渡るため、その妥当性(臨床におけるどの程度のストレスに当てはまるか)については解釈に難渋することがある。そこで本研究では、前述したストレス負荷うつ病モデルにおける知見を踏まえ、ストレス負荷に起因しないうつ病モデルである嗅球摘出(olfactory bulbectomy: OBX)マウスの脳内におけるオリゴデンドロサイトの分化やミエリン並びにランビエ絞輪形成の変化と、それらに対するイミプラミン及び乳酸菌Enterococcus faecalis 2001(EF-2001)の効果について検討した。

     OBXマウスでは、術後21日目においてうつの指標となる尾懸垂試験での無動時間が延長すると共に、前頭前皮質における成熟オリゴデンドロサイト細胞数及びミエリン構成タンパク質の減少やランビエ絞輪の形成異常が認められたが、これらはイミプラミンを2週間反復投与することで改善した。また、同様の効果は、OBX手術7日前からのEF-2001の予防投与によっても認められた。故に、イミプラミン及びEF-2001の抗うつ効果に、オリゴデンドロサイトによるミエリン形成の正常化が関与している可能性が示唆された。さらに、EF-2001については、オリゴデンドロサイトの分化並びにミエリンの形成に関与していることが報告されているCREB/BDNF及びNF-κB p65/LIF/STAT3経路を活性化する作用を有することも併せて見出した。

     以上の知見より、オリゴデンドロサイトによるミエリン形成の促進が、抗うつ効果の発現に大きく寄与すると考えられる。従って、今後そのメカニズムを詳細に考究することが、うつ病のさらなる病態解明や新規抗うつ薬開発の一助になると期待される。

  • *黒川 和宏, 髙橋 浩平, 宮川 和也, 持田(斎藤) 淳美, 武田 弘志, 辻 稔
    次世代薬理学セミナー要旨集
    2023年 2023.1 巻 2023.1_AG-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/03/31
    会議録・要旨集 フリー

    生体は日常様々なストレスに曝露されるが、健常な場合は交感神経系や視床下部-下垂体-副腎系等の一連のストレス応答系が適切に機能することで恒常性が保たれている。一方、過度なストレスやストレスの遷延化は、これらの恒常性維持機構を破綻させることにより情動に影響を及ぼし、精神疾患の発症を助長すると考えられる。我々は以前の研究において、拘束ストレス刺激を負荷したマウスで認められる情動行動の低下が、ストレス負荷24時間前に5-HT1A受容体作動薬を投与することで抑制され、情動的抵抗性が形成されることを見出している。本知見は、ストレスへの適応形成において、5-HT1A受容体が重要な役割を担っている可能性を示唆するものである。また、このストレスへの情動的抵抗性を獲得したマウスの海馬における遺伝子発現の変動についてDNAマイクロアレイを用いて網羅的に解析した結果、白血病阻止因子(leukemia inhibitory factor: LIF)の著明な増加が認められた。LIFは、脳神経細胞の軸索成分であるミエリンの形成を促進する役割を担っていることが明らかにされている。また、ミエリンはオリゴデンドロサイトにより形成され、脳神経伝達の効率や修飾に寄与している。さらに近年、オリゴデンドロサイトおよびミエリンの形成・機能不全が、うつ病などのストレス性精神疾患の病態に関与していることも明らかにされつつある。したがって、LIFがミエリン形成を介して、ストレスに対する適応の形成に深く関与している可能性が考えられる。我々はこれまでに、慢性負荷する拘束ストレス刺激の強度を変えることにより、ストレス刺激が誘発する情動行動の低下が消失するストレス適応モデルマウスと、依然として情動行動の低下を示すストレス非適応モデルマウスを層別作製できることを明らかにしている。本次世代薬理学セミナーでは、これらモデルマウスを用いてストレス適応と5-HT1A受容体を介した髄鞘形成との関連性について検討した研究の成果を紹介し、ストレス性精神疾患の病態解明や新規治療法の開発に向けた今後の展望について考察する。

  • *川畑 伊知郎, 福永 浩司
    次世代薬理学セミナー要旨集
    2022年 2022.1 巻 2022.1_AG-6
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/11
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    超高齢化社会を迎え、認知症の根本治療薬開発が喫緊の課題である。パーキンソン病とその進行にともなう認知症、およびレビー小体型認知症では、原因タンパク質であるαシヌクレインが細胞間を伝播し、脳内に蓄積する。蓄積したαシヌクレインは凝集体を形成し、レビー小体として病理学的特徴を示す。私たちはこれまでにαシヌクレインの神経細胞取り込みと伝播、凝集体形成にⅢ型脂肪酸結合タンパク質(FABP3)が必須であることを明らかにした。またFABP3は神経毒である1-Methyl-4-phenyl-1,2,3,6-tetrahydropyridine(MPTP)によるミトコンドリア機能障害とドパミン神経細胞死にも関与する。FABP3ノックアウトマウスではαシヌクレインの取込みと凝集体形成、MPTPによるミトコンドリア機能低下と神経脱落が認められない。αシヌクレインとFABP3は1:1で結合し、FABP3存在下で凝集体を形成する。またFABP3は長鎖型ドパミンD2(D2L)受容体と結合し、D2L受容体ノックアウトマウスではαシヌクレインの取込みと凝集体形成が認められない。FABP3依存的なαシヌクレイン取込みには細胞膜カベオラ構造とD2L受容体が必要である。そこでαシヌクレイン-FABP3複合体形成を標的としたFABP3阻害薬で処置した結果、初代培養ドパミン神経細胞およびin vivoにおいて、αシヌクレインの取込みと凝集体形成が阻害された。またFABP3阻害薬により、パーキンソン病モデルマウスにおける運動機能と記憶学習機能が回復した。一方、αシヌクレインの取込みにはそのC末部分が必須であることを明らかにした。C末欠損αシヌクレインはドパミン神経細胞に取り込まれない。そこでαシヌクレインC末ペプチドを作製してドパミン神経に処置した結果、αシヌクレインの取込みと凝集体形成が抑制された。またC末ペプチドはαシヌクレインとFABP3の複合体形成を抑制した。さらにαシヌクレイン嗅球投与レビー小体型認知症モデルマウスにおいてC末ペプチドを1ヶ月間経鼻投与処置した結果、記憶学習機能が回復した。これらの結果をもとに、FABPを標的としたレビー小体病の新規創薬戦略について議論し、αシヌクレイノパチーの疾患修飾治療薬の開発状況について紹介する。

  • *鎌形 清人
    次世代薬理学セミナー要旨集
    2022年 2022.1 巻 2022.1_AG-5
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/11
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    Intrinsically disordered regions (IDRs) of proteins are involved in many diseases. However, the flexible IDRs hinder the use of 3D structure-based drug design methods. Liquid droplets of aggregation-prone proteins with IDRs, which become hydrogels or form amyloid fibrils, are a potential target for drug discovery. In this presentation, I will introduce an experiment-guided protocol for characterizing the design grammar of peptides that can regulate droplet formation and aggregation of fused in sarcoma (FUS) (Sci. Rep. 2021). Then, I will introduce a rational design method to obtain a peptide that can bind an IDR using only protein sequence information (Sci. Rep. 2019; under revision). We applied the method to the disordered disordered domains of a tumor suppressor p53 and demonstrated the regulation of liquid droplet formation and DNA-binding function. The sequence-based design may be useful in targeting IDRs for therapeutic purposes.

  • *福永 浩司
    次世代薬理学セミナー要旨集
    2022年 2022.1 巻 2022.1_AG-4
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/11
    会議録・要旨集 フリー

    認知症患者数が2025年には700万人を超える。認知症の原因疾患としては50%がアルツハイマー病、15%はレビー小体病(パーキンソン病を含む)である。世界では抗体医薬をはじめ根本治療薬の開発にしのぎを削っている。私達の研究では早期認知症患者であれば既存の治療薬のリポジショニングで認知症への進行を抑止することができる。新規の低分子薬の新薬開発になると多額の開発費用と時間が必要である。私達も、アルツハイマー病治療候補薬としてカルシウムチャネル活性化薬であるSAK3の前臨床試験を行い、製薬企業への導出を模索している。SAK3はT型カルシウムチャネルを活性化して、神経伝達を促進することで認知機能を高める化合物である。さらに、海馬における神経新生、アルツハイマー病の原因タンパク質であるβアミロイドの分解を促進することで脳機能を維持することができる疾患修飾治療候補薬である。同様にレビー小体型認知症に対しては脂肪酸結合タンパク質(FABP)阻害薬を開発中である。私達はレビー小体型認知症の原因タンパク質であるシヌクレインが毒性の高いオリゴマーを形成する際に、FABPと会合すること、FABPはシヌクレインオリゴマーの神経細胞間の伝播にも関与することを見出した。FABP阻害薬はシヌクレインのオリゴマー形成と神経細胞への取り込みを阻害することでシヌクレインの伝播と神経細胞死を抑制した。SAK3とFABP阻害薬は認知症の進行を抑止することができる。認知症の早期診断と疾患修飾治療薬を組み合わせることで、健康脳長寿社会を実現できる。アカデミア発シーズの製薬企業への導出は極めて困難である。その理由としては画期的な作用機序と化学構造を持つFirst-in-class の薬でなければ大企業への導出は難しい。しかし、アカデミアでは脳科学を基礎とした新薬開発、リポジショニングへのチャレンジを続けるべきである。高齢化社会を迎える我が国において、認知症を予防する治療薬の開発状況を紹介する。

  • *伊澤 俊太郎
    次世代薬理学セミナー要旨集
    2022年 2022.1 巻 2022.1_AG-3
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/11
    会議録・要旨集 フリー

    メラニン凝集ホルモン(Melanin-Concentrating Hormone: MCH)は19残基のアミノ酸からなる環状の神経ペプチドで、睡眠、摂食、エネルギー代謝、不安行動といった多様な機能に関与する。哺乳類ではMCH産生神経(MCH神経)は視床下部外側野に局在し、MCH脳室内投与はレム睡眠を誘導することに加え、摂食量上昇やエネルギー消費節約に機能する。MCH受容体アンタゴニストは摂食量低下とエネルギー消費上昇を誘導することから抗肥満薬としての可能性が複数の製薬会社から検証され、臨床試験においても効果が確認されている。しかし、抗肥満を誘導する神経メカニズムは不明で、また、悪夢や頻脈といった副作用から現在まで実用化には至っていない。そこで、MCH神経がどのようなメカニズムでエネルギー恒常性制御に機能しているのか、MCH神経を後天的に脱落したマウスを用い検証を行った。

     ドキシサイクリンの有無によってMCH神経特異的にジフテリア毒素発現を誘導できるダブルトランスジェニックマウス(MCH-tTA; TetO DTA)を作成し、16週齢からMCH神経の脱落を誘導した。当該マウスは対照群に比べ体重が低く、酸素消費量と二酸化炭素産出量が上昇していた一方で摂食量と飲水量に変化はなく、エネルギー消費の増加が痩せの要因であった。酸素消費量と自発行動量の同時測定から算出した行動量非依存的な酸素消費量もMCH神経脱落によって上昇していた。MCH神経脱落マウスは脂肪組織特異的に重量が低下し、熱産生とエネルギー消費に機能する褐色脂肪組織が活性化していた。褐色脂肪組織に微量注入した仮性狂犬病ウイルスの逆行性感染を経日的にトレーシングしたところ、MCH神経は延髄縫線核の交感神経プレモーターニューロンを通じ褐色脂肪組織を支配していることが示唆された。MCH神経の投射は延髄縫線核に認められ、MCH神経脱落マウスの延髄縫線核は活性化状態にあったことから、生理的なMCH神経活動は延髄縫線核に抑制性のシグナルを送っているものと考えられる。今後、延髄縫線核をターゲットとしたMCH機能抑制によって、より鋭敏に抗肥満を誘導できる可能性が期待できる。

  • *藤山 知之, 船戸 弘正, 柳沢 正史
    次世代薬理学セミナー要旨集
    2022年 2022.1 巻 2022.1_AG-2
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/11
    会議録・要旨集 フリー

    Although REM sleep (REMS) is ubiquitous in mammals, the molecular/neural mechanism of REMS regulation remains unknown. We previously established the Dreamless mutant mice exhibiting ~50% reduction in total REMS time (Funato et al., Nature 2016). We identified an SNP specific to Dreamless mice within the Nalcn gene, which leads to a single amino acid change (N315K) of NALCN, a non-selective leak cation channel. To elucidate the responsible brain regions / neuronal subtypes through which NALCN regulates REMS, we generated flox and FLEx (flip-excision) knock-in mice bearing Cre- dependent loss-of-function and gain-of-function Nalcn alleles, respectively. In Nalcn-FLEx mice, we confirmed that the mice crossed with a systemic Cre-expressing line Actb-iCre phenocopied the Dreamless mice on electroencephalogram and electromyogram (EEG/EMG) analyses. In Nalcn-flox mice, we confirmed a neuronal subtype-specific deletion of Nalcn mRNA in adult brain tissues. Recently we observed that NALCN has distinct roles in forebrain and pons-medulla regions for REM sleep regulation, by using Foxg1-IRES-Cre or En1-Cre lines. Now we are analyzing the sleep phenotype of Nalcn genetically-modified mice with detailed sleep stage scoring.

  • *三輪 秀樹
    次世代薬理学セミナー要旨集
    2022年 2022.1 巻 2022.1_AG-1
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/11
    会議録・要旨集 フリー

    統合失調症は、陽性症状・陰性症状・認知機能障害などの多様な臨床症状を呈する精神疾患であるが、神経生物学的には単一の疾患ではなく、複数の神経回路異常病態が併存する「統合失調症スぺクトラム」であり、患者ごとに異なる症状や臨床経過あるいは治療反応性を示していると考えられている。また、統合失調症の主訴である幻覚や妄想などの精神症状は「ヒト特有の病理現象である」という考えが一般的であり、健常人あるいは患者を対象とした脳画像研究が数多くなされているものの、マウスなど実験動物を用いた細胞・神経回路レベルでの研究とのギャップがあり、限界があるとも考えられてきた。たとえば、実験動物をもちいた精神疾患研究では、精神疾患患者と類似の行動を示すという指標(表面妥当性)に基づき、疾患モデルを評価することが多いが、一見ヒトと似たように見えるマウスの行動が、実際にヒトの行動とどれだけ対応するのかは不明であり、その検証も困難である。このような背景のもと、われわれはマウスなどの実験動物と臨床研究との橋渡しをする双方向トランスレーショナル研究の一助となる神経生理学的指標として、ガンマ帯域オシレーションおよびノンレム睡眠スピンドル波に着目し、疾患横断的な共通病態の解明を目指している。本研究では統合失調症のGABA仮説(Lewis DA & Gonzalez-Burgos G, 2006)に基づいて作成した パルブアルブミン(PV)ニューロン特異的にGABA合成酵素GAD67遺伝子を欠損させたPVニューロン特異的遺伝子欠損マウス(PV-GAD67 KOマウス)およびアデノ随伴ウイルスを用いた視床網様核特異的GAD67欠損マウスを用いて、ガンマ帯域オシレーションとスピンドル波に関する病態解析およびその妥当性を検証する。

  • *金沢 貴憲
    次世代薬理学セミナー要旨集
    2021年 2021.1 巻 2021.1_A-5
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/22
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    アンメットメディカルニーズの高い中枢神経系疾患に対する新薬候補モダリティは、低分子薬物に限らず、ペプチド、抗体、核酸といった中・高分子医薬にまで広がり、治療薬開発への期待が高まっている。しかしながら、全身循環血流を介した脳内への薬物移行は、血液-脳関門(Blood-Brain Barrier; BBB)により制限されることから、BBBを克服した脳内への薬物送達システム(Drug Delivery System; DDS)の開発が中枢疾患治療薬開発にとって重要な鍵となる。

    近年、モダリティの多様化に伴い、投与ルートも多様な進化を遂げている。その中で経鼻投与は、非侵襲性で自己投与が可能であること、初回通過効果の影響を受けないため吸収が早く、即効性が期待できるなどの利点を有すること、さらにBBBを介さない鼻から脳への直接的な薬物送達経路(Nose-to-Brain)の存在が報告されていることから、BBBの透過が期待できないモダリティの脳内への新規投与ルートとして注目されている。

    しかし、モダリティを単独で経鼻投与するだけでは、その脳内への送達効率および送達領域は不十分である場合が多い。また、経鼻投与によって様々なモダリティが脳内に送達された報告は多いものの、経鼻投与後の脳内への送達機構は未だ解明されていない。さらに、脳と同様に送達困難な中枢組織である脊髄への薬物送達システム研究についての報告は非常に少ない。そのため、脊髄を含む中枢組織への効率的なモダリティのNose-to-Brain送達を達成するには、各モダリティの鼻腔から脳・脊髄への動態の理解とそれに基づいたDDSの設計が必要となる。

    本セミナーでは、中枢神経系領域を標的とするDDS研究の現状について概説したのち、自身が進めている動態解析に基づいた薬物・核酸のNose-to-Brain DDS研究について、最新の研究成果を交え概説する。

  • *笹部 潤平
    次世代薬理学セミナー要旨集
    2021年 2021.1 巻 2021.1_A-4
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/22
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    タンパク質構成アミノ酸20種のうち、グリシンを除く19種類のアミノ酸は光学異性体を持つ。 D-アミノ酸とL-アミノ酸は右手と左手の関係のように、構成分子は同じであるが互いを重なり合わせることはできない。このエネルギー的に等価な二つの光学異性体のうちで、生命はL-アミノ酸を中心的に利用し、タンパク合成やエネルギー代謝など多くの生命現象で光学選択的に用いてきた。一方、D-アミノ酸はタンパク合成には活用されないものの、L-アミノ酸とは異なる場面で例外的に生命現象に利用されている。生命がD-アミノ酸を利用する二つの有名な例外が知られている。一つ目は、哺乳類の大脳で内在性酵素によって合成されるD-セリンである。D-セリンは、NMDA型グルタミン酸受容体に結合し、興奮性神経伝達を調節する機能が明らかとなり、1990年代から勢力的に研究が進められてきた。二つ目の例外は、真正細菌が合成する多様なD-アミノ酸である。真正細菌は、細胞壁ペプチドグリカンの架橋剤としてD-アミノ酸を生存に不可欠な分子として利用することが1950年代頃から知られている。また、真正細菌は遊離D-アミノ酸を放出し、他の細菌に働きかけて外的環境へ順応していることが近年明らかとなり、細菌間の連絡分子としての役割が注目されている。さらに、哺乳類に共生する真正細菌はD-アミノ酸を多量に放出し、宿主-細菌相互作用において自然免疫の構築に重要な役割を果たしていることが明らかになってきた。

    このように、哺乳類体内では内因性に合成されるD-アミノ酸と、共生細菌や食事など外因性に摂取するD-アミノ酸が混在し、局所で異なる生理機能を有していることから、哺乳類は局所または全身性にD-アミノ酸を厳密に代謝・制御していることが想定されるものの、D-アミノ酸の吸収や輸送など体内動態は未解明の点も多い。

    本講演では、哺乳類の体内に存在する内因性・外因性D-アミノ酸それぞれに焦点をあて、哺乳類のD-アミノ酸代謝が神経・免疫機能にどのような役割を果たしているかを概説する。また、D-アミノ酸代謝異常が関連する神経疾患や免疫疾患、さらにD-アミノ酸検出の臨床的な意義について最新の知見を交えてご紹介したい。

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