当院ではH30年8月より
産前産後
の理学療法が行える女性専用フロアを新築し,安定期に入った妊婦から産後の方への理学療法を実施しています。
産前産後の女性を対象に理学療法を行う施設がないと困っている産後の方の声が多く聞かれた事が産前産後
の理学療法を始めるきっかけとなりました。妊娠中から産後にかけては腰痛・骨盤帯痛,腱鞘炎など運動器の症状が多いことから当院でも医療保険の適応内での治療を行うことができないか,当院院長に相談し
産前産後
のリハビリテーションの企画が始まりました。
産後の回復には妊娠期から骨盤底筋を含むインナーユニットの機能を維持していくことが重要になるため,産前からの積極的な介入を図っていくことを前提に話を進めました。産婦人科医との勉強会を設け,リスク管理や,患者様と胎児を守る緊急時の対応について学び,当院では理学療法初回介入前に合併症の有無(切迫早産・妊娠糖尿病・高血圧等)を含む専用の問診票にて状態を把握し,介入前後に血圧を計測しています。妊娠中,胎児が大きくなるにつれインナーユニットの機能が低下し,さらに骨盤底筋は出産にて大きく損傷を受けます。産後すぐインナーユニットの機能が回復しないまま授乳や抱っこを繰り返すことで,腰痛や腱鞘炎になる方が多くいます。妊娠期から産後の過ごし方や骨盤底筋に負荷の少ない姿勢,授乳中や抱っこ姿勢の指導,産後すぐに始められるインナーユニットのセルフエクササイズも習得してもらうよう指導しています。産後は骨盤底筋の収縮感覚が低下している方も多く,体表からの触診によるフィードバックと合わせて,経腹的に超音波を用いて骨盤底筋の収縮確認を行っています。骨盤底筋の機能が改善することで体幹が安定し,疼痛の軽減が図れる方や尿漏れが改善する方もいます。
妊娠中の感染予防や母親が落ち着ける空間作りのために,
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のリハビリテーション専用のウィメンズヘルスケアフロアを新築する運びとなりました。フロアにはどのような設備が必要か,また内装の色合いなどを選定するために女性スタッフと設計士で話し合いを設けました。内装においては治療スペースの他に,一般向けに行う
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の腰痛講座などで使用するための広いマットスペース,また子供と来院した際に必要となる授乳室,オムツ交換台,幼児用トイレ,キッズルームを完備しました。待合室には院長の提案で普段ゆっくりした時間を過ごすことが少ない母親のために介入前後にお茶を飲みながらリラックスできるようカフェスペースを設けています。また,企画段階で患者様からの症状で妊娠中や産後の尿もれも聞かれ,その際に男性スタッフには打ち明けづらいとの声もあり,介入は女性スタッフが行うようにしました。
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のリハビリテーションの周知の問題において,当院の所在する別府市では,対象となる妊婦自身や市内の産婦人科,子育てに関わる職種の方に
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リハビリテーションの分野はまだまだ認知されていない状態であり,妊婦でも理学療法の対象であること,また妊娠中の腰痛や骨盤痛は理学療法で緩和されることを認知してもらう必要がありました。まずは,フロアのオープン前に当院へ通っておられる方へ案内を始め,オープン後にクリニックで月2回の
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の腰痛教室を開催,現在は月に1度子育て支援センターで産後教室を実施し,産後の母親に抱っこ紐調整や産後の骨盤底筋の機能についてお話する機会を得ています。
整形外科クリニックで
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のリハビリテーションを行うにあたり,運動器の障害に対してしっかりアプローチできることに加えて
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の身体の変化を理解し,リスク管理が出来ることが必須になってきます。また
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の運動器の症状が理学療法で緩和できることを周知していくために地域での活動も広めていく必要があると感じています。
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