主催: 公益社団法人 日本食品科学工学会
会議名: 日本食品科学工学会第72回大会
回次: 72
開催地: 日本大学生物資源科学部 湘南キャンパス
開催日: 2025/08/27 - 2025/08/29
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【講演者の紹介】吉崎悟朗(よしざきごろう)
略歴:1993年 東京水産大学大学院水産学研究科博士後期課程修了 水産学博士、1993年 米国テキサス工科大学 博士研究員、1995年 東京水産大学水産学部資源育成学科 助手、2003年 東京水産大学水産学部資源育成学科 助教授、2012年 東京海洋大学大学院海洋科学技術研究科 教授
我が国の沿岸には約4000種もの魚類が分布しているとされるが,そのうち養殖が可能とされている魚種は50種程度にとどまっている.実際に日常的に流通している養殖魚種は,ブリ,マダイ,カンパチ,クロマグロ,シマアジ,トラフグ,ヒラメなど,限られた種のみである.しかし,養殖対象外の魚種の中にも,食味に優れたものは数多く存在する.それにもかかわらず,これらの魚種が養殖されてこなかった主な理由は,生け捕りの困難さや,輸送・飼育過程での減耗の多さにある.養殖を開始するには,親魚となる個体を生け捕りし,イケスや養殖池で成熟させて受精卵を得る必要があるが,生け捕りが困難な魚種や,物理的ストレスに弱い魚種では,このプロセスが大きな障壁となってきた.本研究では,生け捕りが難しく,かつ希少な魚種においても,養殖生産が可能となる新たなアプローチを検討した.演者らはこれまでに,魚類の卵巣・精巣から生殖幹細胞を調整し,別個体(宿主)に移植することで,宿主からドナー由来の卵や精子を生産させる技術を確立してきた.さらに,死後1日以内であれば斃死個体からも生殖幹細胞を回収可能であることを見出している.この知見に基づき,生け捕りが不可能な希少魚種においても,鮮魚店等で氷冷保存された個体を用い,生殖幹細胞を回収・移植することで,その次世代の個体を得られる可能性が示唆された.この仮説を検証するため,我々は高級魚として知られるカイワリの次世代生産を試みた.本種は大変美味であるが,その漁獲量が少なく産地近辺の鮮魚店以外では入手が困難である.また,スレに弱いため生け捕りが非常に困難な種である.当初,カイワリの鮮魚から生殖幹細胞を調整し,これを近縁種のマアジに移植したが、マアジはカイワリの配偶子を生産するには至らなかった.そこで,近隣の漁師に依頼をしてカイワリ活魚の収集を進めた.予想通り、この活魚収集は難航を極めたが最終的に成熟雄を入手することができた.そこで,養殖が容易なマアジの卵と,入手したカイワリ雄の精子を用いて両者の雑種を作出した.カイワリはアジ科に属するため,同じ科に属するマアジとの雑種は,カイワリ由来の生殖幹細胞を移植する際の宿主として適していると考えたためである.幸運なことに,この雑種は自らの配偶子を全く生産しない不妊となることが明らかとなった.そこで鮮魚店で購入した氷冷されていた未熟雄個体から精巣を摘出し,生殖幹細胞を調製した.これらの細胞を,マアジ×カイワリ雑種の仔魚腹腔内に移植した結果,生殖幹細胞は宿主の生殖腺へと移動し,雌宿主では卵,雄宿主では精子の形成を開始した.翌年の産卵期には,雑種宿主個体から成熟した卵および精子を得ることに成功し,人工授精を介して大量の純粋なカイワリ次世代を生産することができた.現在では、これらのカイワリを親魚として大量のカイワリを生産可能になっている。 以上の成果から,生け捕りが困難な魚種であっても,鮮魚由来の生殖幹細胞と雑種宿主を組み合わせることで,生きた雌個体を使用することなく次世代を再生産可能であることが明らかとなった.本技術は,今まで養殖できなかった新たな美味しい魚種の養殖化を推進するうえで有望な戦略となりうる.