日本食品科学工学会大会講演要旨集
Online ISSN : 2759-3843
第72回 (2025)
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シンポジウムA3: 発酵醸造文化の未来 ― 伝統的酒造りのユネスコ無形文化遺産登録と次世代への継承
伝統的酒造りのユネスコ無形文化遺産登録について
*北本 勝ひこ
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p. 15-

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抄録

【講演者の紹介】

北本勝ひこ(きたもと かつひこ)略歴:1972年東京大学農学部農芸化学科卒、国税庁醸造試験所入所、福岡国税局、仙台国税局鑑定官、醸造試験所主任研究員を経て、1995年東京大学農学部助教授、1996年同教授、2015年同名誉教授、2016年より日本薬科大学特任教授

 2024年12月に,「伝統的酒造り 日本の伝統的なこうじ菌を使った酒造り技術」がユネスコ無形文化遺産に登録された.これまで,酒類関係のユネスコ無形文化遺産には,ジョージアのワイン(2013),ベルギーのビール文化(2016),モンゴルの馬乳酒(2019)がある.それぞれ伝統的な酒造りが登録されているが,原料や製法の違いがある.今回の「伝統的酒造り」は,“こうじ菌を使った”というところが重要な点である.

 酒造りの教科書に必ず登場する言葉として,「一麹(こうじ),二酒母(もと),三造り」がある.仕込みの最初の工程にある麹が酒造りで一番重要であるという意味である.

 日本酒造りでの麹の働きは次のように説明される。麹にはアミラーゼやプロテアーゼなど様々な加水分解酵素が含まれている.その中でも,アミラーゼが最も重要であり,米のデンプンをグルコースに変える働きがある.酵母はこのグルコースをアルコールに変換することによりお酒が造られる.プロテアーゼなどもアミノ酸やペプチドなどのうま味成分を作るのに働いている.また,麹にはビタミンやミネラルなどの栄養素を酵母に供給し,酵母の増殖を促す働きがある.麹菌はゲノム情報などから,100種類を超す様々な加水分解酵素を生産することがわかっており,アミラーゼやプロテアーゼ以外にも量は少ないものの酒の風味に影響を与えている酵素も数多くある.

 2006年の日本醸造学会大会において、東北大学名誉教授の一島英治博士の基調講演のあと,「麹菌は日本を代表する微生物,国菌である」と認定された.

 さて,国菌である麹菌Aspergillus oryzaeはどこからやって来たのだろうか.2005年に麹菌のゲノム解析が完了したことにより,8本の染色体を持ち,約12000個の遺伝子がコードされていることがわかった.ゲノム情報が解明されたことにより,有用な酵素遺伝子の数や種類など様々なことがわかるようになったが,それ以外にも「麹菌は我が国で家畜化されたカビである」ことが明らかになった.

 麹菌は伝統的な酒造りになくてはならないものであるが,醤油や味噌の製造にも重要な働きをしており,日本の食文化の中心に位置する重要な微生物である.さらに,甘酒や塩麹,石狩漬けや蕪寿司など,麹を使った多彩な発酵食品を作り出している.

 近年、欧米諸国で「代替肉」のブームが始まっている.代替肉とは,牛肉や豚肉などの動物肉の代わりに,主として植物性原料で作られた「肉のような食材」のことである.代替肉の素材として実用化が進んでいるものは,大豆が主原料の「大豆ミート」であるが,最近,「マイコプロテイン」と呼ばれるカビを培養したものも欧米で販売されている.様々なカビが利用されているが,中でも日本で酒造りに利用されて来た麹菌は安全性の面から注目を集めている.日本でも、麹菌を使った「マイコプロテイン」を製造販売するベンチャーも登場しており,栄養価も高く,その食味,食感など実用化に近い段階にある.近い将来,麹菌の活躍の場がさらに広がることが期待される.

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