日本食品科学工学会大会講演要旨集
Online ISSN : 2759-3843
第72回 (2025)
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シンポジウムA3: 発酵醸造文化の未来 ― 伝統的酒造りのユネスコ無形文化遺産登録と次世代への継承
微生物機能を活用した新たな風味を有する泡盛醸造技術の開発
*塚原 正俊
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p. 18-

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抄録

【講演者の紹介】

塚原正俊(つかはらまさとし) 株式会社バイオジェット代表取締役/琉球大学研究推進機構特命教授

略歴:1991年千葉大学生物学科卒,1993年広島大学理学研究科動物学専攻修了,同年(財)神奈川科学技術アカデミー生態シグナル伝達プロジェクト研究員, 1998年明治乳業(株)研究員,2004年(株)トロピカルテクノセンター研究員,2011年(株)バイオジェット創業,2015年農林水産省産学連携コーディネーター(兼務),2022年琉球大学研究推進機構特命教授(兼務),2023年博士(バイオサイエンス)取得(奈良先端科学技術大学院大学)

 泡盛は,約600年の歴史を持つ沖縄の代表的な蒸留酒である。一方,第二次世界大戦の影響などから泡盛の商業醸造に使える微生物株は限られており,酒質の多様化技術の開発が課題となっている.本研究では,泡盛醸造に関わる微生物の基盤・応用研究を進め,新たな風味の泡盛の商品化に繋げた.

1. 既存泡盛酵母101株の育種による香味向上

 泡盛醸造向けに広く頒布されている唯一の酵母101株は,高いエタノール生産性など優れた形質を持つ.そこで,101株の全ゲノム解析による詳細な系統解析とともに,101株を親株として泡盛で好まれる香味成分の一つ酢酸イソアミルの生産性向上を試みた.その結果,ロイシン合成経路に関わるIPMS酵素が変異した酢酸イソアミル高生産株18-T55株を得た.実機醸造の結果,18-T55株は親株の特性を維持しつつ酢酸イソアミル含量が有意に増加し,官能評価でも香味性が向上していることが示された.18-T55株を用いた泡盛として,新里酒造(株)より「かりゆし30度」を商品化した.

2. 新規野生酵母の取得と育種

 泡盛の酒質多様化を目指し,沖縄の自然界から新たにS. cerevisiae HC02-5-2株(ハイビスカス由来)および35a14株(島バナナ由来)をそれぞれ分離した.詳細な系統解析の結果,HC02-5-2株はワイン酵母グループ,35a14株はどの産業酵母グループにも属さない株であることが分かった.また,両株ともに熟成香の1つであるバニリンの前駆体成分4-Vinylguaiacol(4-VG)の生産性が高いことを確認した.一方,これらの株は,酢酸イソアミル生産性がやや低いという課題があったことから育種株の取得を試み,それぞれを親株として酢酸イソアミルを高生産する株(T25株,BNNL80株)を取得するとともに,それぞれの株で酢酸イソアミル高生産の原因となるIPMS酵素の変異点を明らかにした.さらに,それぞれの酵母を用いた泡盛として,(有)神村酒造より「尚KAMIMUA 40度」,および(有)比嘉酒造より「ZANPA 島バナナ酵母 25度」を商品化した.

3.黒麹菌・乳酸菌の機能解析と応用

 泡盛醸造に用いられる黒麹菌 Aspergillus luchuensis の系統関係を全ゲノム情報を用いて詳細に解析した結果,主要な2グループ(AおよびSK)に分類できることなど,黒麹菌の種内系統関係の詳細が明らかとなった.これらの結果を応用して,泡盛醸造に用いられている黒麹菌株(アワモリ株,サイトイ株)と系統的に大きく離れた株を選定し「琉古株」と命名した.当該株を用いた新たな風味の泡盛として,「琉球大学の泡盛II」を(有)神村酒造より商品化した.

 泡盛もろみの乳酸菌についても泡盛風味への影響が考えられたことから,泡盛もろみから乳酸菌を分離し,フェルラ酸からバニリン前駆体(4-VG)への変換能を持つLactococcus lactis,ジヒドロフェルラ酸(DFA)への変換能を持つLactiplantibacillus plantarumを見出した.これらの結果は,もろみ中の乳酸菌が泡盛の風味形成に重要な影響を与えることを初めて科学的に示した成果である.

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