【目的】海底熟成ワインとは,海底に一定期間沈めたワインであり,付加価値の高い商品として世界各地で製造されている.しかし,海底熟成によるワインのフレーバー変化とそのメカニズムについて,エビデンスは示されていない.我々はこれまでに,海底熟成中にフルーティーな香り成分である1,1-ジエトキシエタン(DEE)が生成し,官能で明確な変化が認められることを初めて報告した(日本食品科学工学会 第71回大会).DEEは一般的なワインには含まれないことから,海底熟成により地上保管とは異なるおいしさを生み出せると期待される.本研究では,海底熟成によるワインのフレーバー変化メカニズムの解明を目的とし,海底熟成庫に届く光に着目してDEE生成メカニズムを解析した.
【方法】分光器と光ファイバーを用いて,海底熟成庫に届く光スペクトルを解析した.その後,LEDライトで海底熟成庫の光を再現し,ワインモデル溶液に照射した.
【結果】解析の結果、海底熟成庫には460 nmをピークとする青色可視光が選択的に到達していることが判明した.モデル溶液に青色光を照射した結果,海底熟成に匹敵する濃度のDEEが生成された.一方で,遮光および赤色可視光(625 nm)の照射では,DEEはほとんど生成されなかった.各種条件のワインモデル溶液においてDEEの生成量を比較した結果,青色光のほか,水,酒石酸,鉄,空気がDEE生成に重要であった.これらの要素が引き起こす光フェントン反応によってOHラジカルが生成し,エタノール→アセトアルデヒドの酸化反応を促進,続いてアセトアルデヒドがエタノール2分子と脱水縮合することでDEEが生成されると推定した.本研究では,光に着目した独自のアプローチにより,海底熟成によるフレーバー変化メカニズムの一端を解明することに成功した.本成果は将来的に,光を活用したフレーバー生成技術へと発展することが期待される.