日本食品科学工学会大会講演要旨集
Online ISSN : 2759-3843
第72回 (2025)
会議情報

シンポジウムB4: 国産チーズ・乳酸菌利用の新たな展開と挑戦
麹菌熟成チーズの開発と将来展望
*佐藤 薫
著者情報
キーワード: 麹菌チーズ
会議録・要旨集 オープンアクセス

p. 42-

詳細
抄録

【講演者の紹介】佐藤 薫(さとう かおる)略歴:1985年東北大学大学院農学研究科食糧化学専攻(博士課程前期)修了,同年雪印乳業㈱入社,1996年東北大学大学院農学研究科にて博士(農学)号取得,2013年北海道文教大学教授,2016年日本獣医生命科学大学応用生命科学部准教授,2020年より教授

麹菌(Aspergillus属)は,米,麦,大豆等を原料とした味噌,醤油,日本酒などの製造に必須であり,国菌と位置づけられる日本独特の発酵微生物である.麹菌はプロテアーゼ,リパーゼ,アミラーゼなど多様な酵素を産生する.我々は日本の強みである醸造技術に着目し,麹菌をチーズの熟成に応用し,日本独自のチーズを開発することに取り組んだ.しかし,麹菌が産生する酵素は,タンパク質や脂質の過剰な分解による嗜好性の低下を招く可能性がある.そのため熟成チーズに適した麹菌を選抜し,製造工程の確立と熟成条件の最適化を図った.ここでは産学連携による日本独自のチーズとして麹菌熟成チーズの開発と実用化例を紹介する.1)チーズに適した麹菌の選抜とチーズ製造技術の確立熟成チーズに適した麹菌を選抜する上ではすでに食品に応用されていること,繁殖速度が速いこと,異なる酵素活性を有していることなどを種麹メーカーから麹菌株を入手した.チーズ表面に接種してチーズの熟成状態を調べたところ,白色から黄緑色の外観とチーズ内部が溶け出して変形するものなど様々な組織を呈していた.試食による評価では全体的に旨味が感じられ,一部脂肪分解臭を生成するものもあった.酵素活性の比較からリパーゼ活性が低く,プロテアーゼ活性の高い菌株に絞り込み,最終的に得られた麹菌は,チーズに適している株としてKoji Cheeseの頭文字をとり,麹菌KC43株(Aspergillus oryzae KC43)と命名した.麹菌熟成チーズの社会実装化を達成するためには,現場で実施可能な製造工程にする必要がある.麹菌熟成チーズはカマンベールチーズと同様のソフトタイプの製造工程とし,麹菌を表面に接種する方式を採用した.麹菌接種において麹菌の分生子が飛散しやすいという課題があることから,麹菌分生子をカプセルに充填して使用することとした.滅菌水に分散させ,グリーンチーズを浸漬することで他のチーズ製品に影響を与えることなく麹菌を接種することを可能とした.熟成条件は,麹菌の繁殖に適した温度に設定する必要がある.味噌や醤油の醸造工程では30℃前後で麹菌を繁殖させているため,麹菌熟成チーズもこの温度帯で熟成させることとし,チーズの外観,風味,保存変化の観点から最適化した.30℃前後の熟成温度はチーズにおいて一般的ではないが,短期間でうま味の強いソフトタイプチーズを得ること,生産効率の面でメリットがあると考えた. 2)麹菌熟成チーズの特性と社会実装化麹菌熟成チーズは,旨味成分のグルタミン酸量が市販のカマンベールチーズと比べて5倍程度多く含まれている.これまでのソフトタイプチーズには無い特徴であり,ラクレットなどのハードタイプチーズに近いグルタミン酸量である.さらに麹菌熟成チーズ中の熟成成分や香気成分解析から,カマンベールチーズやブルーチーズとは異なる特徴を明らかにした.麹菌熟成チーズは,複数のチーズ生産者で実際に技術導入し,商品販売に至っている.西欧のチーズ文化と日本の醸造技術の融合により,麹菌熟成チーズという日本発のチーズが広く普及し,酪農乳業に貢献できれば幸いである.

著者関連情報
© 2025 公益社団法人 日本食品科学工学会

この記事はクリエイティブ・コモンズ [表示 - 非営利 - 継承 4.0 国際]ライセンスの下に提供されています。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-sa/4.0/deed.ja
前の記事 次の記事
feedback
Top