主催: 公益社団法人 日本食品科学工学会
会議名: 日本食品科学工学会第72回大会
回次: 72
開催地: 日本大学生物資源科学部 湘南キャンパス
開催日: 2025/08/27 - 2025/08/29
p. 53-
【講演者の紹介】
中田 悠一朗(なかたゆういちろう) 中田食品株式会社 執行役
2016年3月 同志社大学 商学部 卒業、2016年中田食品株式会社入社、2021年より現職
明治30年の創業以来、産地の中心で梅に関する製品を製造・販売する「中田食品株式会社」にて地域特産品である梅の販売促進と新規事業開拓業務に従事
和歌山県は、日本有数の梅の産地として知られ、特に「南高梅」は品質の高さから全国的なブランドとして確立されています。その背景には、歴史的・地理的条件、栽培法の工夫、そして地域による6次産業化の成功がありました。江戸時代に田辺藩がやせ地での収益作物として梅の栽培を奨励したことから始まり、梅は和歌山の主要産業へと発展しました。
中でも「完熟梅」は、樹上で熟すまで収穫を待つことで果実本来の香りと風味を最大限に引き出した高品質な原料として、高級梅干しや梅酒、その他加工品に使用されています。完熟梅の収穫は手間がかかるものの、その価値の高さから産地では雇用創出にもつながり、地域経済を支える重要な要素となっています。
現在の課題としては高齢化や後継者不足、異常気象による作柄の不安定化などが挙げられます。これらの課題に対応するため、梅干しへの加工作業の効率化・分業化を図り、原料梅の買受業務や大規模かつ効率的な漬け込み加工が可能なプラントの立ち上げなど、産地を守るための取り組みも進めています。
従来、和歌山の梅加工は主に梅干しや梅酒に限定され、果汁の活用は十分に進んでいませんでした。しかし、2017年にフランスへのイベント出展を機に、完熟梅の果実そのものの価値に着目し、「梅ピューレ」の開発が始まりました。このピューレはユニークな完熟梅の特性から、海外のパティシエからも高評価を受けるなど、国際市場での可能性が見出されました。
この素材は従来の「梅=しょっぱい」というイメージを覆し、新たなフルーツ素材として、デザートやドリンク、ドレッシングなど多様な食品への応用が期待されます。2023年には和歌山の土産菓子開発事業に採択され、商品化が本格化。梅干し用に適さない規格外果実を活用できる点でも、農家の収益向上とフードロス削減に貢献できる取り組みとしてご説明します。
今後の課題としては、原料を保存方法の確立や、製造工程の自動化・効率化の遅れがあり、需要の急増に対する対応力が問われます。また、需要拡大により完熟梅の価格が高騰し、原料の利用方法の転換などから梅干し用原料が不足するなどの産業構造の変化。さらに、常温保存や流通を実現するための濃縮技術の開発も必要など新たな産業利用にともなう課題についても情報提供
完熟梅の果汁活用は、和歌山県に新たな産業価値をもたらすとともに、日本の伝統食材「梅」をグローバルに発信する可能性を秘めています。今後の技術革新と地域連携により、梅の果汁は抹茶に次ぐ「和のフレーバー」として、世界市場での確固たる地位を築くことが期待されており、その取り組み方針をご案内いたします。