主催: 公益社団法人 日本食品科学工学会
会議名: 日本食品科学工学会第72回大会
回次: 72
開催地: 日本大学生物資源科学部 湘南キャンパス
開催日: 2025/08/27 - 2025/08/29
p. 54-
【講演者の紹介】
奥西智哉(おくにしともや):農研機構食品研究部門 上級研究員 (農学博士)
略歴:略歴:2000年京都大学農学研究科博士課程修了後、農林水産省・食品総合研究所穀類特性研究室。2005年北陸研究センター主任研究員。2009年食品研究部門穀類利用ユニット長。2016年より現職。2023-24年農研機構本部事業開発部併任。米の加工・品質評価研究に従事。『米の話』(監修・共著、缶詰技術研究会)、『伝統食品のおいしさの科学』(共著、NST)。2006年FSTR論文賞(品種判別定量化)、2012年FSTR論文賞(ごはんパン)
米の消費スタイルの変化と“炊飯の工業化” 近年、ライフスタイルの多様化に伴い、米の消費形態にも大きな変化が見られる。昭和60年度には中食・外食が米の消費全体に占める割合は15.2%であったが、令和5年度には33.2%にまで拡大している。かつては、家庭で精白米を購入し、自宅で炊飯するのが一般的なスタイルであった。しかし現在では、弁当や惣菜といった中食等の米飯の消費が増加している。これらに使用される米飯は、主に工場で大量に炊飯されたものであり、「炊飯の工業化」が進んでいる状況にある。このような変化は、いわば“家内制手工業”から“工場制機械工業”への移行、つまり米飯製造における一種の産業革命と捉えることもできる。
業務用炊飯に求められる米飯の機械適性 米飯の美味しさについては、「ふっくらと粒立ちがよく、白くてツヤがあり、適度な粘りと弾力をもち、噛むとごはんの香りと甘さが広がる」といった特徴が、一般的な共通認識として挙げられる。業務用の大量炊飯では、家庭での炊飯とは異なり、炊き上げた後に“ほぐし”や“成形”といった追加工程が加わる。これらの工程では機械によって米飯へ大きな物理的負荷がかかり、崩壊しやすくなる。したがって、こうした加工に耐えうる性質が求められる。一方で、良質な米飯に不可欠な粘りや柔らかさといった特性は、製造工程においては機器内での付着や詰まりを引き起こす要因となり、作業効率の低下や成形品の品質低下を招く可能性がある。そのため、工業的な機械作業に適応しつつ、食味を損なわない水稲品種の選定が重要となる。現在、美味しさの評価には、成分特性(例:アミロース含有量など)や物性特性(米飯硬さ・粘りなど)といった多角的な視点からの研究が進められている。これらの知見を基盤として、業務用米の適性評価においては、成形米飯の重量安定性や米粒の崩壊耐性といった「機械作業特性」を重視した議論が求められるだろう。
農業現場からの米品質評価へのアプローチ 農業生産の現場でも、米の品質や流通に関する新たな取り組みが進んでいる。令和3年からは、「農林水産研究推進事業委託プロジェクト研究(みどり戦略)」が開始された。このうち、現場ニーズ対応型研究として、全農を中心としたコンソーシアムが組織され、「AI画像解析等による次世代穀粒判別器の開発」が推進されている。このプロジェクトでは、玄米の外観から精米歩留まりや被害粒の割合を数値化する機械鑑定の基礎知見の蓄積を目指している。農研機構は、玄米の外観特性と米飯の物性・食味との相関を明らかにする課題を担っており、アミロース含有量や物性データ、水分・容積重などの理化学的評価データを取得・活用して、品質の指標化を進めている。これらの取り組みにより、消費者ニーズの多様化や中食・外食における米飯需要の拡大に対応し、収穫から流通・消費に至るまでの各段階をデータでつなぐ「フードチェーン全体の最適化」が期待されている。将来的には、米の取引価格や炊飯品質にまで反映される仕組みの構築が視野に入る。