抄録
<要旨> 本稿は、現代パキスタンにおけるハワージャ・サラー(Khawaja Sara)共同体とLGBTQA+ 運動との関係を民族誌的に検討するものである。近年、パキスタンでは性的少数者の権利をめぐる法整備や国際的な人権運動の拡大に伴い、ハワージャ・サラーはしばしば「トランスジェンダー」あるいは「LGBTQA+ コミュニティ」の一部として語られるようになった。しかし、ハワージャ・サラーの自己理解は、欧米を中心に形成されたLGBTQA+ のカテゴリーと必ずしも一致していない。本稿は、2011年から2025年にかけて筆者がパキスタン各地で実施した参与観察をもとに、KS 共同体がグローバルなLGBTQA+ 言説をどのように受容し、翻訳し、再解釈しているのかを分析する。特に、①ハワージャ・サラー共同体の自己理解、② LGBTQA+ 言説が共同体へ流入した経路、③その過程で生じた代表性、宗教、資源配分をめぐる交渉に注目する。