<はじめに>
ネパールの内発的発展を考えるとき、女性を発展の担い手として位置づけ、ジェンダー問題の改善をめざす視点は必要不可欠であろう。なぜならば、家庭や地域で様々な役割を担っている多くの女性たちが男性や社会の支配の下で色々な問題を抱えながら日常生活を送っている。地域社会の一員である女性たちが抱えている問題を解決せずに、地域の発展は不可能になるからである。例えば、ネパールの農村部では女性たちは毎日のように森林に入って薪や草の採取をしているため、森林保全に重要な役割を果たしていると言われている。その女性たちに日常生活と森林保全の関係性について知識を与えない限り、森林保全が困難である。
現在では、ネパールの発展のため、技術の導入とともに、地域住民の環境に対する知識向上、意識の変容、価値観の見直しなどに向けて様々な取り組みが行われている。特に、地域住民が主体的・積極的に地域の環境問題への対応力を身につけることは重要であると考えられており、政府、NGO・NPOなどのステークホルダーによる環境問題に関するプログラムや研修が積極的に実施されている。しかし、男女差別によるジェンダー問題が根強く残っており、女性の参加には力がそれほど注がれていない。また、環境問題を取り上げる際に女性たちの問題に配慮していないことが多い。
環境問題への興味関心の内容が男性と女性とでは異なること、その背景には、それぞれが生活面で担っている役割の違いがあることなどが指摘されている(Gough 2013)。しかし、男女の違いを意識した研究は、これまでの環境教育研究では管見の限りみることはできない。したがって、本研究は、こうした課題を明確化するものである。
環境とジェンダーの因果関係を理解し、問題を解決していくためには、日常生活を中心に女性たちの生活改善、地位向上、エンパワーメントなどのジェンダー視点を含めた環境教育、すなわち「生活に根ざした」環境教育を行う必要がある。しかし、現在行われている環境教育は自然環境に特化しており、こうした生活面が薄く、ジェンダー視点が余り含まれていないため、従来型環境教育だけで問題を解決するには限界がある。
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