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18 巻
(2022)
01 号
p.
3-11
ネパールにおける環境教育とジェンダー
シュレスタ マニタ
<はじめに>
ネパールの内発的発展を考えるとき、女性を発展の担い手として位置づけ、ジェンダー問題の改善をめざす視点は必要不可欠であろう。なぜならば、家庭や地域で様々な役割を担っている多くの女性たちが男性や社会の支配の下で色々な問題を抱えながら日常生活を送っている。地域社会の一員である女性たちが抱えている問題を解決せずに、地域の発展は不可能になるからである。例えば、ネパールの農村部では女性たちは毎日のように森林に入って薪や草の採取をしているため、森林保全に重要な役割を果たしていると言われている。その女性たちに日常生活と森林保全の関係性について知識を与えない限り、森林保全が困難である。
現在では、ネパールの発展のため、技術の導入とともに、地域住民の環境に対する知識向上、意識の変容、価値観の見直しなどに向けて様々な取り組みが行われている。特に、地域住民が主体的・積極的に地域の環境問題への対応力を身につけることは重要であると考えられており、政府、NGO・NPOなどのステークホルダーによる環境問題に関するプログラムや研修が積極的に実施されている。しかし、男女差別によるジェンダー問題が根強く残っており、女性の参加には力がそれほど注がれていない。また、環境問題を取り上げる際に女性たちの問題に配慮していないことが多い。
環境問題への興味関心の内容が男性と女性とでは異なること、その背景には、それぞれが生活面で担っている役割の違いがあることなどが指摘されている(Gough 2013)。しかし、男女の違いを意識した研究は、これまでの環境教育研究では管見の限りみることはできない。したがって、本研究は、こうした課題を明確化するものである。
環境とジェンダーの因果関係を理解し、問題を解決していくためには、日常生活を中心に女性たちの生活改善、地位向上、エンパワーメントなどのジェンダー視点を含めた環境教育、すなわち「生活に根ざした」環境教育を行う必要がある。しかし、現在行われている環境教育は自然環境に特化しており、こうした生活面が薄く、ジェンダー視点が余り含まれていないため、従来型環境教育だけで問題を解決するには限界がある。
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18 巻
(2022)
01 号
p.
12-20
ネパールのパタン、ナグバハルでの文化祭「サミャク・マハダン・フェスティバル」の事例研究
バンダリ ネハ, シュレスタ マニタ
サミャク・マハダン・フェスティバルは、ネパールのカトマンズ盆地で祝われる仏教の祭典であり、最も壮観なニューアー仏教の伝統で仏と僧侶に与える習慣を祝われる。カトマンズ盆地で最初に記録されたサミャク祭は西暦1015年(ネパールの太陰暦では135年)に開催され、カトマンズでは12年に一度、ラリトプルでは5年に一度、バクタプルでは毎年観察されている。「サミャク・マハダン・フェスティバル」は1805年まで毎年ラリトプルのパタン、ナグバハルで祝われていたが、開催に膨大な費用が掛かるため、「サミャク・グティ」により5年に一度開催することになった。
「サミャク・マハダン・フェスティバル」の主な主催者は仏教徒であり、全体を主導している。一方、ディパンカラ仏を歓迎しながらマントラ唱えるのはヒンズー教徒の役目である。仏教徒とヒンズー教徒の両方が祭りの期間中、神々への崇拝と供物に参加するのである。様々なカーストの人々も特別な責任を果たすのである。つまり、「サミャク・マハダン・フェスティバル」は、宗教的差別やカースト的差別がないものである。
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18 巻
(2022)
01 号
p.
21-43
富津市東明寺十二神将像と北条義時の戌神霊験譚
濱名 徳順
十二神将は薬師如来の眷属で、日本では十二支と習合して昼夜十二時や生まれ年の守護神ともされたが、あくまで薬師如来の補佐役にとどまり、十二神将そのものに対する信仰はほとんど生まれなかった。そんな中、鎌倉時代の歴史書『吾妻鏡』に語られる北条義時にかかわる「戌神霊験譚」では珍しく十二神将自体が重要な役割を演じている。
鎌倉幕府第二代執権北条義時(以下義時)は承久の乱鎮圧の立役者であり、その後の北条氏独裁体制の礎を築いた人物として名高く、本年のNHK大河ドラマの主人公ともなっている。戌神霊験譚は義時が自ら造像した十二神将中の一体に危うい所を救われる話だが、それに因んで創案されたと思われる特異な像容を示す戌神の十二神将像が相模国周辺に相当数遺存している。これは義時創建の鎌倉大倉薬師堂に安置された十二神将像に範を取ったものと推定され「大倉薬師堂様」の呼称が定着つつある。
ここでは千葉県富津市東明寺で新たに確認された大倉薬師堂様の十二神将像(以下東明寺像)を報告しつつ、他例との比較の中でその特徴を明らかにし、義時の戌神霊験譚を反映した大倉薬師堂様十二神将の成立の時期や経緯を考えてみたい。
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19 巻
(2023)
01 号
p.
11-17
ネパールの内発的発展向けた「生活に根ざした」環境教育
シュレスタ マニタ
【要旨】
ネパールでは、特に農村地域において森林は生活燃料の原料である。森林資源への依存、持続不可能な使用、違法的な薪の採取、政策的な問題などが最も深刻な環境問題の一つである。これらの問題の解決のために、身の回りの環境に対する地域住民の知識向上、行動の変化、状況の改善、価値観の変容をねらう環境教育の重要性が増している。
現在、ネパールの中でも特に政府、NGO・NPOなどのステークホルダーが積極的に地域の環境問題やジェンダー問題の解決のために様々な啓発活動を実施し続けてきている。その一つとしてバイオガスの導入活動がある。しかし、男女差別によるジェンダー問題が根強く残っており、女性の知識向上には力がそれほど注がれていない。また、環境問題を取り上げる際に女性たちの問題に配慮していないことが多い。このような状況のもと、ネパールの環境問題を解決し、地域の内発的発展のためには、日常生活を中心に女性たちの生活改善、女性の地位向上などのジェンダー視点を含めた環境教育、すなわち「生活に根ざした」環境教育を行う必要がある。
本研究では、ネパールの森林保全や薪を利用する女性たちの生活改善のためにバイオガスを導入している地域の典型的事例としてチトワン地域を取り上げ、「生活に根ざした」環境教育のあり方について論じる。
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19 巻
(2023)
01 号
p.
3-10
親鸞と聖徳太子信仰
渡辺 郁夫
【要旨】
親鸞が念仏者として阿弥陀仏信仰をもっていたことは言うまでもないが、また親鸞は聖徳太子信仰の持ち主でもあった。親鸞の聖徳太子信仰は法然門下に入る以前からあったと思われ、法然門下に入る際にもそれが大きく関係し、また晩年に至るまで一生続き、親鸞は太子に強い思慕の念を抱いていた。親鸞の聖徳太子信仰は四天王寺における聖徳太子信仰と深い関係にあったと思われ、四天王寺に伝わる文書も四天王寺の本尊の仏像も親鸞の聖徳太子信仰に大きく関係していると思われる。親鸞にとって最晩年に至るまで聖徳太子信仰は一貫して重要な位置を占めており、阿弥陀仏信仰さらには本願思想に包摂される形をとりながら、親鸞の聖徳太子信仰は四天王寺における聖徳太子信仰と深い関係をもちつつ親鸞自身を導いていたことがうかがわれるのである。
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19 巻
(2023)
01 号
p.
18-22
民族造形の根源・人口問題を考える
滑志田 隆
【要旨:造形の源泉としての人口問題を考える】
民族造形は人間の集団の力によって支えられている。その基礎となる人口動態は各民族の多様な価値観の表現の根源であり、マクロ的視点から近未来の人類社会の状況を知るための指標である。このため、世界人口の推移はもっぱら食料需給や貧困拡大との関連性で把握されてきた。諸民族の造形力がどのように変容していくのかを予測する時、人口問題はきわめて重要なキーワードであり、地球規模の環境問題とも深く結びついている。一方、わが国の人口問題は少子・高齢化と労働力の減少、医療費の増大などの社会問題として意識される。その方向性の中から新たな造形力の出現の可能性を探ることは、次世代から託された私たちの喫緊の課題である。
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