糖尿病学の進歩プログラム・講演要旨
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セッションID: DL-4
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レクチャー:糖尿病の成因と病態の解明に関する研究の進歩(2)
β3-アドレナリン受容体
*吉田 俊秀小暮 彰典
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抄録

β3-アドレナリン受容体(β3-AR)は白色脂肪組織における脂肪分解と褐色脂肪組織における熱産生に大きな役割を果たしている。1984年に開発されたβ3-ARアゴニストは肥満動物において著明な抗肥満・抗糖尿病効果を示したが、ゲッ歯類には著効してもヒトには効果がなかった。この効果差の原因は、1989年になり、ヒトとゲッ歯類のβ3-ARの化学構造上の種差によることが明確になった(ヒトβ3-ARは408個、マウスは388個、ラットは400個のアミノ酸より構成される)。1995年には、ヒトβ3-AR遺伝子のTrp64Arg変異がピマ・インディアンにて発見され、内臓脂肪型肥満やインスリン抵抗性、更には、糖尿病とも強く関連することが明らかになり、β3-ARの体脂肪調節に果たす役割の重要性が注目された。演者らも、日本人の34%にβ3-AR遺伝子多型(Trp64Arg)が存在し、ホモ型及びヘテロ型はワイルド型に比べ、糖尿病を6年早く発症すること、糖尿病性網膜症や腎症も2から3倍多く合併すること、更には、安静時代謝量が200kcal/日減弱しており、肥満患者の減量に当たっては食事指導を通常より200kcal減らしたより厳しい食事指導をしないと痩せにくい減量困難さを持つことを見出した。一方、β3-ARアゴニストは褐色脂肪細胞に作用し、熱産生に中心的役割を果たす脱共役蛋白質1(UCP1)を増加させ、白色脂肪細胞及び骨格筋にもUCP1を発現させる働きも持つため、褐色脂肪組織の少ないヒト成人においても有効であることが期待される。近年、脂肪細胞が、レプチン、TNF-α、PAI-1といったサイトカインを分泌し高血圧や糖尿病などの発症に密接に関与していることが明らかにされた。これら生活習慣病の根本的な治療として、内臓脂肪量の減量が重要視され、抗肥満薬としてのヒトβ3-ARアゴニストの開発に期待が高まり現在までに数多くの臨床治験が進められている。しかし、ヒトの安静時代謝量を著増させるアゴニストも発見されたが、耐えがたい皮膚紅潮などの副作用が出現するため、現在は多くの製薬メーカーにて改良が加えられている段階である。また、臨床応用時に懸念されたβ3-AR遺伝子多型の有無による効果差や、慢性投与時の受容体の発現調節についても知見が得られている。本講演では、現時点でのβ3-ARに関する最新情報を述べてみたい。

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© 2005 日本糖尿病学会
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