抄録
1. 人口減少時代の到来や地球環境問題への対応など人口増加や経済成長を前提にしてきたわが国の国土整備・地域整備のあり方について新たな視点から抜本的に再構築すべき時にあると考えられる。中部圏は、大都市圏を抱える圏域でありながら、豊かな自然環境、ゆとりある生活が実現されている恵まれた地域である。こうした中部圏の強みを生かしつつ、新しい時代に対応する地域整備のあり方を考察した。
2.中部圏の地域構造や地域整備の現状と課題は以下の通り。
(1)人口分布は名古屋市への緩やかな一極集中であり、昼夜間人口比率からは名古屋市以外の主要都市の独立性の高さが窺える。その背景として中部圏の製造業(雇用の場が分散傾向である)の強さが挙げられる。
(2)中部圏は豊かさ(1人あたり県民所得)とゆとり(1人あたり住宅面積)が両立した恵まれた圏域である。
(3)中部圏の課題として、ア.中心市街地の衰退と郊外の乱開発を招いていること、イ.雑然とした都市景観が形成されていること、ウ.公共施設が重複し無駄が生じていること、などが明らかになった。
3.新しい中部圏の地域整備のあり方として、本調査では「多極集中型地域構造」を提案したい。これは、圏域内の複数の地方都市がそれぞれの個性、魅力を競いながら連携するとともに、これらの地方都市(極)に人口やさまざまな機能がコンパクトに集中する地域構造が望ましいと考えるからである。多極分散ではなく、あえて多極“集中”としたのは、人口や諸機能の無秩序な分散がインフラ整備・公共サービスの低下や自然環境の悪化を招くといったリスクを重くみたためである。なお、多極集中型の地域構造の典型的な事例として、オランダの「ランドスタット(アムステルダム、ハーグ、ロッテルダム、ユトレヒトからなる環状都市群地域)」を参考にした。また、多極集中は中部圏が長所を活かしながら無理なく実現するために最も望ましい地域構造であるといえよう。これは、(1)中部圏が持続的な成長を実現するためには、圏内各都市の多様性が不可欠であること、(2)中部圏は主要都市の独立性が高く多極集中型地域構造に適していること、_丸3_中部圏は市街地が拡散しやすい性質を持つため、集中のための施策が必要、といった理由による。
4.さらに、中部圏における多極集中型地域構造の実現方策として、次の4点を提言したい。
<多極の形成と連携実現のための施策>
(1)市町村合併の推進による最適規模の都市の実現
(2)広域自治体を視野に入れた広域連携の推進
<過密なき集中実現のための施策>
(3)ゾーニング規制の強化と景観を重視した美しいまちなみの形成
(4)住民意識の転換と醸成