日本地理学会発表要旨集
2003年度日本地理学会秋季学術大会
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太田川の段丘と三瓶火山起源のテフラ
*林 正久
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p. 63

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抄録
1.はじめに中国地方では段丘地形についての報告例はあまり多くない。小畑(1991)によると,姫路から笠岡付近までの瀬戸内沿岸は段丘の空白地帯であるが,その他の中国地方には広範囲に分布しているが,規模が小さく断片的であるという。日本の他の地方に比べると報告例は多いとはいえない。また,地形誌としての段丘の報告は比較的多いものの,段丘編年や地形発達の研究事例は乏しい。 今回,太田川の支流,滝山川の段丘堆積物中に三瓶起源のテフラが発見され,段丘形成時期を特定できる可能性を報告する。2.段丘の露頭とテフラの特徴 三瓶起源のテフラが見つかった河成段丘は,太田川支流の滝山川にある滝山峡の右岸側に位置して,太田川水系中流の貫入曲流部と上流との境界の遷急部分,広島県山県郡加計町温井にある。この段丘を仮に温井段丘と呼ぶ。 段丘面はかなり傾斜しており,河床側に比べて山麓側は5_から_10m高くなっている。河床との比高は約20mである。 温井ダム建設に伴う道路工事によって,段丘面が削られ,高さ5_から_7m,幅約50mの切取り面ができた。基盤の花崗岩を切って,厚さ3m以上の礫層が見られる。径5_から_10cmの円礫を主体とし,径1mを越える亜角礫も混在する。礫種は中生代の火山岩類,高田流紋岩,花崗岩からなり,花崗岩礫はやや風化している。やや不明瞭ではあるが層理がみられることから滝山川の河床礫と考えられる。河成礫層の上を厚さ約2mの砂質土が覆う。径30cm程度の亜角礫を含んでおり,山地斜面からの崖錐性の風化土が主体である。風化土の上部には古土壌が見られる。その上を厚さ約20cmのキナコ状の黄色火山灰が覆い,さらに厚さ1mのローム質土壌がある。段丘面の上は畑として利用されている。河成礫層を水平方向にたどると,途中から黄色の細粒軽石層が現われる。厚さ約10cmでレンズ状を呈する。ただし,河成礫層はこの軽石層には覆われていない。キナコ状の黄色火山灰は町田・新井(1976)の報告した姶良Tn火山灰(AT)に対比される。黄色細粒軽石層は林・三浦(1986)の報告した三瓶雲南軽石(SUn)に対比される。 礫層の上部には,SUnが存在していないことは,SUnの堆積面が当時の滝山川の河床面を示すものと考えられる。3.テフラから見た段丘形成期 SUnの火山ガラスが大山倉吉軽石層(DKP)に混在している(三浦,1990)こと,DKPを竹本他(1987)は4.8万年前,町田(1996)は約5万年前と報告しており,現時点ではSUnの降下年代を約5万年前と推定する。したがって,温井段丘は約5万年前の滝山川の河床が段丘化したもので,ATの降下年代を2.5万年前(松本他,1987)とすると,河床の下刻は5万_から_2.5万年前に始まり,現在までに約20m低下したことになる。AT層直下には古土壌があることからみて,SUn降下後,短期間のうちに離水した可能性が高い。4.まとめ本報告のまとめとして,次の2点を指摘する。(1)三瓶雲南軽石(SUn)のテフラとしての広域性SUnは三瓶山の東方へは90kmまでその存在が確認されている。また,南方80kmに位置する広島市安芸区瀬野町水越峠で発見された瀬野川火山灰(成瀬,1980)もSUnに対比される。温井段丘は三瓶山の南西約60kmに位置している。このように山体から南_から_南西に向かって広範囲に分布しており,中国山地における年代指標としての有効性が期待される。(2)太田川の河成段丘の形成年代。太田川水系における河成段丘の編年について,従来ほとんど報告されていなかった。温井段丘に相当する河成段丘は,本地域以外にも点在しており,広範囲に段丘の対比が行なえる可能性ある。今回で指摘した温井段丘の形成が約5万年前という年代は,山麓緩斜面の形成期や河川争奪の時代といった中国地方の地形発達を考察する上でも重要な検討材料となるであろう。
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