抄録
1. 背景・目的
近年大きな問題となっている地球温暖化は、海面上昇を引き起こすとされ、海面上昇ならびにそれが臨海平野へ与える影響を正確に予測することが求められている。この為には過去の海面上昇期における沿岸環境の変化を知っておくことが重要である. しかし、更新世から後氷期にかけてのユースタティックな海面上昇の結果、臨海平野の古地理がどのように変化したのかは、将来変化予測のためのベースラインとして位置づけるには、未だ曖昧なことが多い。本研究では、多数の14C年代測定値に基づく詳細な堆積曲線が得られている複数のボーリングコアの珪藻群集を分析比較し、加えて堆積物中の陸源物質の影響を把握できる炭素安定同位体比を用い、過去一万年間の濃尾平野における水環境の変遷を明らかにすることを目的とした。
2. 対象地
濃尾平野は西縁に養老桑名断層を持ち、1m/krの速度で傾動しつつ沈降している(須貝・杉山1999)。また、木曽三川をはじめとする多くの河川が流入し、平野に多量の土砂を供給している。このため、堆積物が侵食を受けずに連続して堆積した可能性が高い。加えてOgami他(2006)によって多数の14C年代測定に基づく詳細な堆積曲線が得られている複数のコア試料があることから、この地域を対象地とした。本研究では濃尾平野で掘削されたコアのうち、3本(YM-1,KZN,SB,NK-1)を使用した。
3. 方法
・珪藻分析
各コアの細砂以下の細粒層を対象として、深度方向約2m間隔で試料を採取し、スミアスライド法を用いて、プレパラートを作成した。各々200殻を目処に同定を行い、珪藻群集を淡水生種、淡水~汽水生種、汽水~海水生種、海水生種の4つのグループに分類した。
・炭素安定同位体比
分析深度について、堆積物を乾燥粉砕し、塩酸処理を施した後、(機
械の名前)で測定を行った。
4. 結果
炭素安定同位体比は、珪藻群集から推定される海進、海退に伴う塩分濃度の変化と概ね一致した。また、柳沢(1996)による相対的水深指標とも、似た傾向を示した。種ごとの深度別の変化を見ると、淡水生種、海水生種ではほぼ同様の傾向を示した。汽水生種については、各コアにより種構成が異なるものの、増加減少の繰り返しが見られるものと、海進期に多く見られるもの、海退期に多く見られるものに分けられた。
5. 考察
各コアでデルタの影響が出始め珪藻群集が変化し始める頃に、安定同位体比も陸源供給物質が多くなったことを示した。またKZNで見られた海進時における、汽水生種の増加減少の繰り返し時期と、安定同位体比の増加減少時期は一致した。このことから、海進期において塩分濃度が増加減少を繰り返しながら、少しずつ高くなっていったことが更に示唆される。また、種組成の変化は、4本のコアで地理的条件の違いを反映している部分もあるが、内湾最拡大期にはほぼ一致した傾向を示し、湾内の数10km程度では、ほぼ同様の堆積環境であったことを示唆している。