抄録
広島県内で,ブッポウソウとカンムリウミスズメの保護活動支援を目的として,野鳥観察を中心としたエコツアーを行っている。本報告では,この活動が定着し,地元住民の利益を生み出しながら,保護活動を継続的に行うための課題を検討する。具体的には,これに関連して実施した2種類のアンケート調査結果に基づき,ツアーの意義や内容についての評価や,需要の有無,想定される客層などを明らかにし,今後の課題を論じたい。
対象とする見学ツアーは,三次市作木地区でのブッポウソウ見学と,呉市倉橋島沖でのカンムリウミスズメ見学である。共発表者の飯田は,20年余にわたり,ブッポウソウの生態調査と巣箱かけなどの保護活動を行ってきた。これまで,その活動費用を基本的に自弁してきたが,ブッポウソウの広島県内での生息数が回復してきたこともあり,ブッポウソウへの理解を広く知らせることや,保護活動への理解・協力を広げるために,エコツーリズムの展開を模索することとした。そこで,2008年に広島大学総合科学研究科の研究・教育プログラムの活動の一環として,モニターツアーを行った。2009年には,瀬戸内海での生息が近年確認されたカンムリウミスズメの見学もメニューに加えた,参加者を一般に募集するツアーを実施することになった。
ツアー実際にあたり,前年度に引き続き,関連した調査を行うこととした。1つは,広島市民を対象としたWEBアンケート調査で,もう1つはツアー参加者を対象としたアンケート調査である。調査結果の要点を示すと,広島市民WEB調査からは,鳥の知名度の低さにもかかわらず,1/4程度の回答者がツアーへの関心を示すとともに,野鳥保護や環境教育の効果を認めていることなどが明らかになった。ツアー参加者調査からは,参加者が,いわゆるマニア層を中心とすることを確認するとともに,ツアーの評価が,一般向けアンケートで重視される以上に,対象とした鳥を見られたかどうかに左右されることがわかった。また,活動支援金の許容額は1,000~3,000円程度で,2008年度以来の4種の調査においてあまり変わらない。
見学ツアーの今後の展開として,鳥の知名度が低い一方,野鳥愛好家には魅力を感じさせ,実際に鳥を見ることの満足度が高いことから,まずは野鳥愛好家層をターゲットとして参加者を募り,その人脈を期待して,集客を増やしていくことが無難と考えられる。その際,集客圏を広島県内のような狭い範囲ではなく,京阪神や首都圏など,野鳥観察や写真撮影のために全国を回る趣味人が多く住む地域を想定すべきである。
ただし,ツアーのプログラムや実施方法等について検討すべき点は多い。第一に解説や案内の充実は,最優先事項である。現状の参加者評価は高いが,鳥が見られなかった場合などに,解説・案内の果たす役割が大きい。解説を聞くだけでも満足できる「学び」のツアーを意識することが大切である。その際,野鳥の解説だけではなく,保護活動についての解説や,保護活動を実体験することへのニーズがあるので,活動に参加する人,活動をサポートしてくれる人を獲得する場として,ツアーを設計することも考えられる。また,野鳥観察以外のプログラムを充実することも課題である。現状では,オプション部分が未熟なことは否めない。地域との関わりあるメニューをいかに創り出すかが,観察会を行っている地域の保護活動や観察ツアーへの前向きな姿勢を引き出す上で不可欠である。
当面は愛好家層を意識する展開でよいと思われるが,どこかでより一般的な参加者が集まるようにすることが望まれる。また,地域との関わり強化も課題で,野鳥が地域で保護されるためには,保護活動に関わる人を増やさなければならず,地域住民が解説者や案内者を担うことも期待される。そのためには,保護活動が地域にとって利益になるしくみを生み出すことが必要である。