抄録
Ⅰ 高齢化が進む郊外住宅地と高齢者の生活問題
日本において高齢化は農山村地域の問題とされてきたが,これからは都市地域でも高齢化が本格化する.とりわけ3大都市圏の郊外で高齢者の増加が著しいとされるが,既に高齢化の進んでいる住宅地がみられる.2010年国勢調査の小地域集計から東京大都市圏の状況をみると,①1970年代までに開発された戸建て住宅地,②公営等の集合住宅からなる住宅地において高齢化が進行している.特に高齢化率が30%台から40%台と高い住宅地は,①の事例では神奈川県から東京都,埼玉県にかけての丘陵地や千葉県の下総台地に開発され,鉄道駅から距離がある住宅地にみられる.同様に②の事例には,多摩ニュータウンの早期に開発された地区や埼玉県草加市の草加松原団地などが該当する.前者の住宅地では自立に伴う子ども世代の転出と親世代の加齢が,そのことに加えて後者の住宅地では,公営住宅への高齢者の集中が高齢化の促進要因である.
これらの住宅地では独居や高齢者のみの世帯が増加し,その社会的孤立が懸念され,実際に孤独死も発生している.また,近隣における商業施設や医療機関の閉鎖は,加齢に伴う住民のモビリティの低下と相俟って生活維持に対する制約を強めている.さらに,時間経過に伴う住宅の老朽化や設備の高齢者対応,空き家・空き地の発生,丘陵地に開発された住宅地のモビリティの悪化等,住環境の問題も顕在化している.
Ⅱ 住環境整備と地域生活支援の取り組み
高齢化が先発する住宅地では,現在までに福祉施設や高齢者住宅の設置,住宅ならびに周辺環境のバリアフリー整備,集合住宅の建て替え,高齢者の外出を支援する新たな交通手段の導入といった住環境整備が試みられている.また,社会的孤立の防止に向けて,高齢者に対する見守り活動や交流のための居場所づくり,買い物や通院時の送迎といった生活支援が,地域包括ケアの一部として取り組まれている.社会的に孤立しやすい高齢者が住み慣れた地域で生活を続けるために,きめ細かに生活を支援する体制が構築されはじめている.
東京大都市圏を事例にすれば,国立社会保障・人口問題研究所の市区町村別将来推計人口(2008年12月推計)によると今後は都心から30km以遠の郊外で高齢化が急速に進むとされる.大都市圏の郊外は,広い意味での福祉的観点から,上のような住環境整備と地域生活支援の体制づくりを一層拡大する必要にせまられるであろう.
Ⅲ 脱成長社会におけるストック活用型の地域整備
現在,財源的制約が強まる中で新規の公的投資はかつてと比べて困難とされ,国や自治体による公助にも限界が指摘されている.それを補完する担い手として地縁型の住民組織や市民活動団体,NPO,社会的企業等の活躍が期待されているが,現状は元気な高齢者を中心とするボランティアが活動を支えているケースが多く,さらなる成長には困難が伴う.ゆえに,脱成長社会における地域整備は,物的・人的資源の既存ストックに強く依存する,つまりストック活用型の取り組みが基調となるであろう.大都市圏の郊外は,それらの資源に関して一様ではない住宅地から構成されている.住民生活の安定化に有効であり,かつ持続性をもった地域整備の取り組みには,住宅地単位での物的・人的資源の実態把握とその経時的変化のモニタリングに基づいた具体的方法の確立が重要である.