日本地理学会発表要旨集
2021年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 275
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発表要旨
大規模オンラインサーベイによる地理的マルチレベルデータの構築(1)
調査方法と調査項目に関する概要
*埴淵 知哉
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抄録

人文地理学において利用される統計としては、居住者の集合的特性を表す集計データ(高齢化率など)が長らく主要な位置を占めてきた。このような集計データは地域特性を素描するのに適しているものの、諸現象の相関性や因果関係をめぐる個人と地域(環境)それぞれの影響やその相互作用を解明するには不十分である(例えば生態学的誤謬の問題)。これに対して、近年は地理学でも非集計(個票)データの収集・分析が普及しつつある。特に、個人の属性や行動、意識に関する個票データに、地域の諸特性を表す集計/空間データを紐づけた地理的マルチレベルデータは、社会科学諸分野を横断して広い関心を集めている。このデータ構築のためには、位置情報をもつ個票データが必要になる。ところが個票データを収集するための社会調査では、プライバシー意識の高まり等を背景に回収率の低下が深刻化してきた。そこで近年、登録モニターに対するウェブ回答形式のアンケート調査(オンラインサーベイ)を学術利用する試みが進められている(埴淵・村中 2018)。

 このような背景のもと、発表者はオンラインサーベイを通じて大規模な個票データを収集し、それを各種の地域指標と紐づけることによって、汎用的な地理的マルチレベルデータを構築することを計画した。具体的には、2020年の10/30-11/30にかけて東京特別区と政令指定都市を対象とした大規模なオンラインサーベイを実施し、詳細な住所情報(番地・号レベル)をもつ個票データ(n=30,000)を収集した。この規模によって、個人-地区(例えば学校区や行政区)-都市という三層のマルチレベル構造や、各都市内における個人-地域関係の面的な連続性を想定した分析なども可能になる。同時に、非大都市を対象としたオンラインサーベイ(n=3,000)と準確率的標本からなる郵送調査(n=1,361, 回収率=68.1%)を実施し、地域間および調査手法間での標本特性の偏りを評価可能なデータを収集した。いずれの調査においても年齢(20-69歳)・性別の比率を住民基本台帳人口に合わせて割付配布/回収するとともに、オンラインサーベイについては住所情報の回答に承諾が得られたケースを優先回収する形式で実施した。

 調査項目は大きく①地域設問、②個別設問、③個人属性に分かれ、オンラインサーベイでは調査分割法により個別設問が三種類に分割された(したがって回収数は各1/3となる)。地域設問としては地域の住みやすさや愛着、近隣環境の認知など、幅広い地理学的関心に沿う汎用性の高い設問を導入した。個別設問としては主に、健康(COVID-19に関する意識などを含む)、科学、消費、ライフスタイル、移住、国勢調査、防災、社会意識といった多様なトピックに関係する内容を取り上げた。また個人属性に含まれるのは、年齢や配偶関係、職業、住宅などの基本項目である。

 本データはデータアーカイブへの寄託が予定されており(詳細な住所等の個人情報は除く)、一定の手続きを経て人文地理学内外の研究者が自由に研究利用できるようになる。とくに、調査資源の限られる大学院生や若手研究者に対して二次分析利用の機会を提供することを企図している。広く共有可能な大規模データが整備されることにより、多様な議論の土台となる基礎的知見の蓄積や、幅広い調査項目を組み合わせた仮説生成/検証、そしてデータに基づく学際的共同研究が進むことが期待される。

埴淵知哉・村中亮夫 2018. 『地域と統計——「調査困難時代」のインターネット調査』. ナカニシヤ出版.

*本研究はJSPS科研費(17H00947)の助成を受けたものです。

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